第110回
「非上場企業株式の現金化‐M&Aが流動化・再投資の原点に‐欲しいマッチング・サイト」
2012年08月02日
前回、米国の著名な投資家ウォーレン・バフェット氏のこれまでとは全く変わったM&A戦略について報告したが、バフェット氏は今年春、前立腺がんをあえて告白しており、医療分野への進出が取り沙汰されていた。
M&Aの問題は、わが国ではここにきて海外を対象としたものが注目されている。今年は1~6月で262件と過去最高の件数を記録したという。円高が海外企業M&Aを押し上げたといわれているが、今回は地方の中堅企業が海外への進出を図るベースとしているのも特徴だ。またネット・ビジネスをベースとする企業の海外M&Aも増えている。
一方、事業の将来を見据えた戦略的M&Aも加速している。業界で注目されているのは、三菱重工業による英アルテミス社(エディンバラ)の買収だ。アルテミスは油圧システム開発ベンチャーで、風力発電機の今後の大型化に備え、従来のギア駆動から、2倍の出力が得られる油圧駆動に変えようというものだ。
去る7月に出された平成24年度年次経済財政報告(内閣府)においても、積極的な外国企業に対するM&Aは、イノベーションを生み出すきっかけ、あるいはイノベーションの内部化などにつながるとして大きな期待を寄せている。
一方国内のM&Aについては事情は一変、後継者不足による事業存続のためのM&Aといった色合いが強い。帝国データバンクなどによると、売上が100億円未満の企業約40万社中26万5千社で経営者の高齢化が問題となっており、廃業の危機にさらされている企業も少なくないという。
そこでここにきて、M&Aのための企業のマッチングへの動きが顕在化してきた。引き合わせといった中途半端な動きを超え、企業をオークションに出す方向すら出てきている。
システム開発のアリアルが2011年から運用するM&Aスクウェアによると、オークションを含め売却案件は年間250件にも達しているという。また日本M&Aを成立させるためには、財務データの正確さは不可欠。中小企業までは、いわば粉飾気味の経営で進めているところが少なくない。だが、このような事実が発覚するとM&Aなどとして不可能となる。関係筋によると不明確な財務が発覚するケースがかなり多いという。
高齢企業がM&Aされるメリットとしては、経営者の持つ株式が現金化され利益損失が確定する点があげられる。廃業してしまえば株券はただの紙切れだが真面目な起業と技術展開を進めてきた中小企業に対しては、それなりのメリットが実現されなければならないだろう。
また従業員の雇用が確保されるメリットも大きい。従業員の中から後継社長を選ぶという話があるが、実際に実現するケースは極めて稀だという。経営者の交代はM&Aが主流。企業を今後も継続的に発展させるためにもM&Aは有力な方策となる。
米国などではM&A専門の仲介業者市場が立ち上がっているが、わが国ではこの分野が大きく遅れをとっている。経営者の株式の流動化は、それによって作られた現金とベンチャーなどに再投資という動きが誘発された非上場企業の相互発展の大きな原動力となっている。
わが国では様々なM&Aマッチング・サイトが求められる時代となっている。
(多摩大学名誉教授 那野比古)