第109回
「バフェット氏が地方新聞社をまとめ買い‐注目のビジネス・モデル「ハイパーローカル」」
2012年07月26日
わが国で最近M&A(企業の合併・買収)が非常に進んでいるといわれるが、この問題は次回に眺めることにして、本欄が常に注目してきた米の著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が新たな動きに出て注目されている。
それはバフェット氏が主宰する投資会社バークシャー・ハザウェイ社を通じて、何と米国内の地方新聞社を買収しまくっているというのである。中には発行部数がわずか数千部といった超小モノ新聞社も含まれており、バフェット氏のこれまでの投資動向からは信じられないベクトルをみせているのだ。
バフェット氏の動きは、売るにしろ買うにしろ世界の提灯持ちの灯元とされ、その一挙一動は世界の投資家の注目の的となっているもの。本欄でも報じたバフェット氏の中国の電気自動車(EV)メーカーのBYD社への投資は、世界のカネが中国のEVや太陽電池メーカーへ向う大きな流れを作った。
地方新聞社の買収は、バフェット氏の生地であるオマハ(ネブラスカ州)で開かれたバークシャー社の株主総会で明らかにされたもので、すでに63社を買っているという。
新聞事業は地方新聞社に限らず斜陽の典型といわれており、インターネットや電波をベースとした新たな、しかも双方向リアルタイムの読者参加の報道事業台頭の前にその将来性が疑問視されてきた。現在の新聞社はそれら新たなメディアとのドッキングを探し求めているというのが現状である。
ところがバフェット氏の見方は全く異なる。彼が唱える「ハイパーローカル」と呼ばれるビジネス・モデルが地域共同体としての地方紙に新たな将来性を与えるというのである。
ウェブ・サイトを持っている地方紙は地域密着型の超ローカルな記事を掲載すると同時に、そのローカル記事の読み手に対しては地域内のローカルな商店の公告などを送り出すことができる。ここでいう超ローカルとは、結婚や出産、小学校のサッカー・ゲームの結果からゴルフ・コンペでのホールイン・ワンなど大手紙では無視される記事のことで、ここでのビジネス・モデルの主体はあくまで地方地域。ただ、地方都市ならどこでもいいというわけではなく、中間に所得層が多く商店街であり、それなりの中小産業が発達した町ということになる。
ちなみに各社の買収価格はEBITDA(金利支払い前・税引き前・償却前利益)の約5倍といわれている。わが国でもM&Aで急速な拡大に成功している超小型モーター・メーカーがあるが、この企業も買収目標はEBITDA5倍を打ち出している点は興味深い。
ハイパーローカルなウェブ・サイトはやがて大手新聞社の運用するデジタル・マーケッティング・サービスといった大規模なサイトの中で紹介されていく動きもある。
地方紙は今は個々の利益は小さくても、ゆるやかに、確実に利益を生み出す余地をはらんでいるというのがバフェット氏の見方だ。
(多摩大学名誉教授 那野比古)