第106回「永住権を餌に国外の個人投資家を呼び込め‐米国の「EB‐5」プログラム」
2012年07月05日
前回オバマ政権のベンチャー育成・雇用拡大策の目玉『JOBS法』について書いた。JOBS法は国内ばかりでなく広く海外の起業かをも対象とするもので、わが国でも何回か説明会が開かれている。
この制度が海外からベンチャー企業を呼び込む仕組みであるならば、海外から個人投資家を呼び込みベンチャー育成、不振企業の立て直し、それに雇用の拡大を図ろうという施策もある。この場合の目玉は、米国での永住権(グリーン・カード)の付与。移民に対し厳しくなっている米国への移住に極めて注目すべき制度となっていたが、残念ながら今年2012年10月でオバマ政権が3年間延長した期限が切れてしまう。この移民法の名称は『EB‐5カテゴリー・プログラム』。
投資永住プログラムとも呼ばれるEB-5は、
(1) 米移民局が指定する地域センターの事業に対し50万ドルまたは100万ドルの投資を行う
(2) 間接的にでも10人の雇用の創出、維持が行われることが条件となっており
具体的には、100万ドルの投資で2年以内に100人の米国人の雇用創出・維持、失業率が米国平均失業率の150%超の地域に50万ドルを投資して2年以内に10人の米国人の雇用創出・維持、米移民局指定の地域センター(米国内に40ヶ所あまり)内のベンチャー企業、経営が行き詰っている企業に対し50万ドルの投資を行い、間接的に雇用創出・維持を行う。
ただし申請すればすべてが受け入れられるというわけではなく、毎年EB-5への割り当ては1万件で、そのうち5千件が地域センターへの投資となっている。
この制度のポイントは、失業者が多い地域でのベンチャー企業、経営困難企業への投資による雇用の創出・維持、地域経済の振興が大きな目的。
90年移民法のもとで、新たなカテゴリーとしてEB-5が制定され、1998年には地域センターも指定されて画期的な移民システムが始動したが、混乱も続出、1998年移民局はこの制度を中止してしまった。2003年再施行されたが、2009年9月までの時限立法だったため、ベンチャー、雇用に敏感なオバマ政権が3年間、2012年10月末までの延長を決めた。
米国に入国するには、3ヶ月未満滞在のノー・ビザ、3~6ヶ月滞在のB-2観光ビザ、2~5年の学生ビザ、20万ドル投資者に対するE―2投資ビザ、駐在のためのL-1ビザ、職業用のH-1ビザなどがあるが、いずれも滞在期限がついている。E―2ビザの場合は5年毎の更新が必要だ。
これに対してEB-5プログラムは、条件を満たせば永住権(グリーン・カード)が得られるとあって特に中国人に人気が高く、2009年には2千件の永住権が中国人に与えられている。韓国人は900人余り。これに対して日本人は84件にすぎなかった。
オバマ政権の雇用拡大にからめたベンチャー振興にかける意気込みは、前回JOBS法や今回のEB-5プログラムの再施行などにしっかりと見ることができるだろう。
(多摩大学名誉教授 那野比古)