第104回「フェイスブック⑤‐かつてグーグルが行った画期的な新IPO方式をかえりみる」

 今回のフェイスブックのIPO(新規株式上場)は、主幹事証券会社が公募・売出し価格を決めて売り出すという古典的な方式によるものであった。

 そこで思い出されるのは、このフェイスブック社が創立された2004年、グーグルが、この古典的方式を破った画期的な方法でIPOを果たした点だ。

 グーグルはオープンで透明な形で公募価格を決定することによって、投資専門家ばかりでなく、ユーザーにもIPOに参加してもらえる方式を選んだ。それが「ダッチ・オークション」方式である。

 一般に公開でのせり入札オークションで目にするのは、入札する側の買い手で価格を競争的に吊り上げていき、最も高い価格をつけた人が落札する形式だ。これは「イングリッシュ・オークション」と呼ばれているが、大部分の入札はこの形のオークションが採られている。

 ところが「ダッチ・オークション」では、価格を吊り上げていくのではなく、あらかじめ示されたある価格帯内において価格を引き下げていき、最高価で入札されたところで落札という方式をとる。このオークションの仕方は、オランダの花市場で用いられていたことから、ダッチ(オランダ)方式のオークションと呼ばれるようになった。

 ダッチ・オークションは、それをIPOに適用したのはグーグルが初めてだが、米国では自社株買いの際にしばしば用いられていた手法である。

 ダッチ・オークションでは落札価格は、累積入札額と数量が密接な関係を持つ。IPOを例に説明を加えておく必要があろう。

 いま、ある企業がIPOで1万株を放出したとし、売り出し価格帯を10ドルから13ドルに設定した。

 公募を行うと次のような3つのケースが考えられる。

① 入札希望株式数の累積が、10ドルから11ドルまでの値で入札した人だけで放出予定株式数に達してしまった。
② 入札希望株式数の累積が、最高値の13ドルで入札した人も含めて、放出予定株式数に達しなかった。
③ 逆に、入札希望株式数が最低価格10ドルで入札した人だけで放出予定数を満たしてしまった。

1番目の場合、入札希望株式の累計が、放出予定株式数に達した時点での最高入札価格が落札価格となる。①の例では、落札価格は11ドルだ。

 2番目の場合は、最高値の13ドルで入札希望株式数すべてを放出することになる。

 最後の例では、10ドルで入札した人から案分比例で株式を放出する。

 ダッチ・オークションの最大の特徴は、価格の決定がオープンで透明性が保たれている点である。それに落札までのスピードが速い。

 グーグルの場合、2004年7月10日、IPO入札参加のための専門ウェブ・サイトを開き、8月13日に入札を開始、8月18日に締め切った。決まった株価は85ドルであった。

 翌19日から始まったナスダックでのグーグル株の取引では初値はこの18%アップの1株100ドルであった。

 オークションの方式では、ダッチであろうと、イングリッシュであろうと、その他の方式であろうと、どれを用いても理論的には同じ値に落ち着くという「収入等価原理」が金融工学的に証明されている。

 しかし実際にはダッチ・オークションでは収益がIPO例で減少する恐れがあるといわれている。先のグーグルの例でも、市場初値は18%アップとなっており、これだけでもグーグルには4億ドル以上の機会損失が出たといわれている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)