第91回「取得株式数に違い‐最終には“目利き”が決定」
2012年03月22日
前回、DCF法などでの企業の価値評価は、現在いくら資産があるかなどではなく、企業が将来生み出す利益、キャッシュ・フローの集積にあると述べた。
また、類似先発企業の足跡と比較することによって、その企業の今後の姿を推定することに使われている。
いま、設立5年ばかりの企業があり、この企業に100万円出資したいとする。この企業の発行株式数は1万株であるが、これを増資して100万円の出資に対応する株数、出資者が受け取るべき株式数はいくらとなるのか。
類似先行企業事例によると、このような企業では設立10年後には年5億円の利益を上げるに至っており、設立5年後にIPOしてからずっとRER(株価収益率)は10倍のままであった。投資対象の企業もすでに年間500万円の利益を上げており、今後先行企業に似た動きをすると考えられる。
ここでPER(株価収益率、price eanings ratio)という言葉が出てきたが、これはその企業の株価が、その企業の1株当たりの利益の何倍となっているかを示す数値で、一般には株価水準を判断する指標として重視されている。同業平均と比べて高ければ割高、安ければ割安と考えるのである。
単純な考え方は、現在の利益から
500万円×10=5000万円
この企業の現在の時価総額は5千万円であり、100万円の出資は
100/(5000+100)=0.0196≒0.02
2%の株式数の増加となる。
Xを増資株数とすると、
X/(10000+X)=0.02 X=204
204株を増資して渡せばよいことになる。
出資者は投資する以上、それなりの利益を得たいのは当然で、投資5年後で内部収益率は50%取得したいと考えている。
多数の投資者に注目されている人気成長企業(例えばグーグルやアップル)では、企業側は次のような5年後をベースとした強気な増資論理を考える。
内部収益率50%で投資額100万円の5年後の価値は、
100万円×(1+0.5)5乗=760万円
100万円の5年後の価値は760万円となる。一方、5年後の株価総額は5億円×10=50億円
出資額の占める割合は、760万円/50億円=0.0132≒0.013% つまり1.3%。この分の増資によって、いくらの新株を発行すべきかをみると、新株数をXとして
X/(10000+X)=0.013
X=149.42≒150
この企業は100万円の出資に対し、150株を新規に発行して手渡せばよいことになる。前例との違いをみて頂きたい。
あるベンチャー企業への出資に際し両極の簡単なわかりやすい例として示したものだが、実際にこのような計算のみがもとで出資決定がなされたという事例は知らない。
IPO狙いのVCにあっては、投資経験豊富ないわゆる“目利き”によって、決定されるのがほとんどである。
将来の利益など推定によって大きく左右される計算の精度は極めて低く、様々な計算の方法が提案されているが、結果的には多くのベンチャー企業訪問経験があり、投資経験実績が決定する世界である点を忘れてはならない。
(多摩大学名誉教授 那野比古)