第74回
「原発事故は収まってはいない-忘れてならぬ「再臨界」のリスク‐中性子線の恐怖」
2011年11月11日
去る10月初め、東京電力福島第一原発2号機で、キセノン135などが検出され、一時的再臨界かという注目すべき発表があった。
再臨界の危険性については本欄で早い時期から指摘していたものだが、それが現実になると、超危険な中性子線という極めて透過性が高く、高いエネルギーをもつ中性子というこれまでの福島第一原発事故ではみられていない新しいタイプの放射線による被曝の怖さが浮かび上がってくる。
ここで用語について整理しておこう。
①核分裂:たくさんの陽子や中性子(ウラン235では235個)でぶよぶよに膨れ上がり、大きな水滴のようになった原子核が2つに割れて2つの小さな原子核になること。外部から刺激(中性子をぶつける)すると分裂するが、自らぶよぶよに耐え切れず分裂する「自発核分裂」もある。
②連鎖反応:中性子をぶつけられたウラン235のぶよぶよ原子核からは、2つに分裂する時、エネルギーと、2個ほどの中性子が飛び出す。この2個の中性子について、
A.1個は次の核分裂に使われ、1個はどこかに吸収されるか飛び去って無くなる。
B.2個とも次の核分裂に使われる。
Aの場合もBの場合も次々と核分裂が進む「連鎖反応」だが、Aでは制御された中でエネルギーが取り出せるのに対し、Bでは核分裂は2倍、2倍と増えていって制御不能。Aが原子力発電、Bは原子爆弾ということになる。
③臨界:このような連鎖反応が生じる状態になったこと。
ここで注意しなくてはならないのは、核分裂で生まれた中性子は「高速中性子」と呼ばれ原子核にぶつかるとはじき飛ばされてしまい、次の核分裂にあまり寄与しない。この高速中性子は、水など「減速材」を通過させて水素や酸素の原子核に何回か衝突させてスピードを落とし「熱中性子」にすると、ウラン235などのぶよぶよ原子核に効率良く取り込まれて容易に核分裂させることができる。
核分裂を連続的に引き起こすためには、熱中性子が届く範囲に別のウラン235などが存在していなくてはならない。これはある程度の量のウラン235などが必要ということで「臨界質量」と呼ばれる。
このようにみてくると、中性子を減速する水と、ある量のウラン235があれば臨界に達することがわかる。
原発の原子炉中では、臨界質量以上のウラン235と減速材の水が、臨界状態が安定的に続き、連続した連鎖反応が進行できるよう配置されている。
一方、溶融した燃料棒の塊デブリでは、割れ目などに外部から、中性子の減速に十分な水が供給され、局所的にある量のウラン235があれば、一過性的な臨界が実現、核分裂が偶発的に発生する可能性がある。
これが「再臨界」である。
再臨界はすべてが局所的、一時的とは限らない。そこで連鎖反応が進行するような条件が偶然にも整っているとすると、前述Bの状態、即ち原爆的反応が発生する危険性も否定できない。
冒頭のキセノン135は、ウラン235の核分裂によって生じた2次的な生成物で、核分裂で生じたテルル135が2分でヨウ素135に崩壊、これが6.7時間でキセノン135にかわり、さらに9.2時間でセシウム135へとそれぞれβ線を出しながら変化していく(数字は半減期)。
再臨界によって核分裂が一時的にでも発生したとするならば、キセノン135の検出から直近の出来事、少なくても10時間以内であろう。
なおこの現象を前述自発核分裂で説明しようとする向きもあるが、ちょっと根拠に無理があるようである。
(多摩大学名誉教授 那野比古)