第46回
「米国でも福島第一1号機と同型炉で「外部電源喪失」事象-巨大竜巻が送電線を破壊」
2011年05月02日
日本ではあまり報道されていないが、去る4月27日、竜巻としては最大級カテゴリーF5のトルネード(米国では陸上の竜巻はトルネード、海上のウォータースパウトと分ける)が米南部6州を襲い、アラバマ州北部にあるブラウンズフェリー原発では3基の原子炉で外部電源が喪失する事態が発生した。この原子炉は、現在問題となっている東京電力福島第一原発の1号機と同じ米GE社製のマークⅠ型沸騰水型炉(BWR)である。
4月26日夜から27日にかけて米南部6州では、ほぼ同時多発的に111個もの竜巻が発生。320人以上の犠牲者を出した。中でも最大の竜巻は幅1km、100kmにわたって地上の全ての構造物をなぎ倒した。惨状は津波被災地並み。瞬間最大風速130m。米国での竜巻の平均的規模は幅117m、長さ7km余りといわれているから、今回の竜巻がいかに強烈なものか推測できよう。ちなみに日本の場合は幅98m、長さ3.2kmが平均である。
竜巻はブラウンズフェリー原発を直接襲ったわけではない。この原発に電力を供給する送電線が破壊された。原因は原発のサイトより十数kmも離れたところにあった。当原発では直ちにバックアップのディーゼル発電機が作動、事なきを得たが、原発を運用するTVA(テネシー・バレー公社)によると、さらに2重のバックアップをとっており、たとえ大洪水にあっても大丈夫という。
TVAはこの10日ほど前にも、バージニア州にあるサリー原発の原子炉2基が竜巻によって外部電源を失う経験をしており、竜巻には特に注意を払っている最中でもあった。
米国では1974年4月に東部でF5竜巻が6個、F4が24個という巨大竜巻の群発があり、この時も300人以上の死者がでたが、これを契機に竜巻直撃を含めた竜巻に対する原発の防御は一段と強固にされた。
アラバマ州など米国南部では2005年8月、巨大ハリケーンのカトリーナに襲われた。米観測史上に残る猛烈な暴風雨と広範囲な洪水に対し、ブラウンズフェリー原発は耐えた。本欄44回で指摘したように、米国の原発はテロの破壊工作まで意識した堅牢な事故対応がとられており、わが国の福島第一原発と同型炉でも事情はまったく異なる。
原因が何であろうと、ひとたび原発事故を惹起すると、その賠償と修復のための費用は莫大なものになることは初めから判っており、その巨額さと比べると事故封じのための費用は取るに足らないとの見方が徹底されている。
事故原因発生確率(この確率そのものがかなり恣意的)掛ける損害費用というリスク・コスト管理の考え方は、原発には通用しないというのが常識化されつつある。
(多摩大学名誉教授 那野比古)