第41回「異なる損傷ステージの初の同時多発複合事故‐運転停止直後の炉内余熱は熱出力の何と7%」

 本欄では、今回の東京電力福島第一原発の事故について、「史上初の外部電源喪失事故」、「残留熱除去系の回復に期待」など事故の本質についていち早く取り上げてきたが、本欄は興味本位の話題の提供が目的ではなく、あくまで客観的な信頼ある資料・データに基づいている。

 外部電源喪失については、炉心溶融が避けられず、大事故へと発展する過程については詳しくは触れなかった。炉心溶融については、1年間運転した電気出力100万kw(熱出力300万kw)の原子炉の場合、外部電源喪失による炉心冷却不全、主冷却水喪失(LOCA)により、炉心の連鎖反応は停止していても、核分裂生成物などの崩壊により、膨大な余熱が発生する。運転停止直後の崩壊熱は、熱出力の約7%と見積もられており、100万kw級原発では何と20万kw余り。1日経つと1万6000kwに激減するとされているが、それにしても膨大な余熱があり、緊急の冷却手段をとらない限り燃料棒などの溶融は必須となる。

 その後は燃料棒の高熱のジルコニウムが水蒸気と反応して水素を発生、水素爆発、溶けた炉心が水と接して水蒸気爆発といった経緯となり、格納容器や圧力容器(特に加圧水型炉)の上部がロケットのようにふっ飛ぶ。米国ではこれをアポロ・シンドロームと呼んでいる。沸騰水型炉については、すでにその過程が1970年代に米国で「BWR2」として記述されており、これと同様なことが福島第一原発で起った。

 米国などでのシュミレーションによると、この余熱は急速に低減、5日後には9000kw、1ヶ月後には7000kwと落ちており、事故直後の冷却への対応がいかに重要かを物語っている。
 
 ただこれまで想定された事故やチェルノブイリ事故と、福島第一原発事故との最大の相違点は、原子炉が一挙に破壊されていない点。福島第一原発では、炉の破壊がジワリと発生しており、かつ、4基の原子炉が同時多発的に、しかも破壊の程度がそれぞれ違ったステージのいわば複合事故が発生している。これは、これまでの原発研究調査では想定されていない事故だ。

 従って、先に話した炉内の余熱の急速な低減、これを反映した溶けた炉心の中の半減期による放射性物質の量の減少も、かつてのシュミレーション通りにはなっていない。

 炉心は冷却水がなくなると早ければ10分、一般に3時間余りで急速に溶融が始まるとされる。100万kwの原発では炉心の全重量は約250トン。このうち毎日3トンのウランが核分裂し、同量の核分裂生成物が発生する。これが溶けた塊、いわゆるデブリとなってそれ以後の問題を引き起こす。

 超早期、超迅速な冷却が求められたわけで、海水の注入も遅きに逸した感がある。

 ただ圧力容器への海水の注入は、高熱で海水から水が蒸発、炉内などに析出した塩がその後の修復作業に必要な部分などを詰まらせる危険性がある。海水冷却は原子炉製塩と同じ。早急な真水冷却への変更は不可欠な措置であった。ただし海水にしても真水にしても、溶融した核分裂生成物などを外部へと溶かし出す危険性は変わらない。
 

(多摩大学名誉教授 那野比古)