第39回「災害地内外で活躍する中小・ベンチャー企業―義援金拠出者すべてを掲載する地方紙」

 東日本巨大地震では、社会ストックが大幅に失われた。1995年の阪神淡路大震災では、道路、橋梁、護岸、港湾、建築物などで9.9兆円が失われたとされているが、今回の巨大地震ではこれが20兆円以上に達するとの試算もある。

 この復旧にはかなり財政支出が必要で、ここにきて図らずもケインズ流の大規模な公共投資を実施せざるを得ない事態となった。当面フローの成長は大幅に落ち込むものの、これらケインズ流投資が動き始めると、フローはかなり回復するとの期待もある。

 このようなマクロ的な災害のとらえ方がある一方、ミクロな面では中小・ベンチャー企業の活躍も目にとまる。

 被災地では、ケンコー(福山市)が活躍している。携帯トイレのメーカーで、袋に出した排泄物を吸水性の高いポリマーで20秒ほどで固化するといい、消臭・抗菌の効果をもち、阪神淡路大震災では大変重宝がられた実績をもつ。

 停電のために大幅な乾電池不足が発生、小売り店の棚からは電池が消えてしまったが、特に深刻なのは生産量が少ない単1電池。この懐中電灯などには不可欠な電池を単3で代替できるアイデア商品を出しているのが旭電機化成(大阪)など。「単3が単1になるアダプター」で、プラスチックの円筒状アダプターに単3を入れると単1電池に早変わり、懐中電灯などに使用できる。同社では三重県の工場が24時間フル生産という。

 携帯電池用に短時間で充電可能という「ソーラー充電器」のメーカーも生産に追われている。これはインターネット販売だ。

 手動ピストン・手回しポンプで作動する数社の浄水器メーカーは、飲み水などの浄化で注文が増えた。活性炭が入っていると、水道水中の放射性物質を数分の1にできる期待もある。

 変わったところでは、10万円を切る安価な電動バイクを販売しているテラモーター(東京・渋谷)では、ガソリン不足の対応策として問い合わせが激増したという。

 水プラズマで鉄筋、鉄板をも簡単に切断できるというユニークな小型装置を開発、販売しているレイテック(東京・港区)にも救助などの用途で問い合わせが相次いでいる。

 水がなくても洗髪できるという「ドライシャンプー」。もともと介護施設向けの商品というが、ここにきて販売を扱う資生堂などに注文が急増している。頭髪にスプレーして泡立て、タオルで拭き取るだけで洗髪が終了するという手軽さが受けた。

 注目されたのは種々のロボットを開発するメーカーだが、実際の災害地での活躍はみられなかった。ロボット製品自体の災害地など過酷な条件での信頼性に加え、ロボットを操作する要員の派遣がむつかしいというのも理由だ。実用ロボットの開発が待たれる。

 義援金を拠出した人すべてを紙上に掲載するという試みで注目されているのが地方日刊紙の大分合同新聞。売名とのそしりがある中で、先の阪神淡路大震災では4億円あまり集めた。今回はポケットマネー1億円をポンと拠出した企業経営者もあるというが、2千円の寄付との扱いは全く同じ。紙面は追い込みではなく、1人ひとりを1~2行に掲載するという親切さで、このような扱いは新聞業界では初めてといい、地方での支援の輪が広がっている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)