第38回「放射線障害に「急性」と「晩発性」、「残留熱除去系」の再起動に期待」
2011年03月23日
今回の東京電力福島第一原子力発電所(原発)の事故で、ヨー素131、セシウム137、ストロンチウム90などといった炉心で生成された放射性核種(天然には絶対に存在しない)の生活環境への飛散が問題となっている。
これら放射性の核分裂生成物には、半減期という“寿命”があり、これを過ぎると他の核種へと崩壊する。
半減期というのは、2倍の時間が経てばゼロになるという意味ではない。セシウム137は半減期30.1日だが、30日経つと確かに放射能は2分の1になる。さらに30日経つとその2分の1、つまり4分の1、さらに30日でその2分の1の8分の1といった具合に減っていく。つまり3ヶ月後でもまだ8分の1の放射能をもっているということである。
炉心事故で外部に放出される放射性のヨー素は、大部分は半減期8.1日のヨー素131だが、1億分の1ほどヨー素129という核種が含まれている。この半減期は1570万年。ちょっとやそっとでは消えない。
放射線の強さに関しては、水や食物の汚染に使われるベクレル(Bq)とか、放射線の生体への影響を加味したシーベルト(Sv)などが使われていて混乱が生ずる。生体についてはシーベルトが重要である。一般にはミリシーベルト、その1000分の1のマイクロシーベルトが単位として使われる。
ちなみにざっくりの話しだが、ヨー素131については、1ベクレルは0.02マイクロシーベルトと考えてさしつかえない。
放射線障害には、急性と晩発性がある。
急性というのは被曝によって直ちに体に異常が現れるケースで、例えば400ミリシーベルトを浴びると白血球の減少がみられる。ちなみに3000ミリシーベルトで半数が死亡、10000ミリシーベルトでは全員死亡の転機となる。
一方、晩発性は、放射性核種が体内にとり込まれ、それが長期間にわたって放射線を出すことによって生ずる障害で、代表は発がん。内部被曝といわれる。チェルノブイリ事故でヨー素131やヨー素129を吸った成長途中の子どもたちが、ここ10年、甲状腺がんや白血病を頻発している。一般の発病率の数百倍ともいわれている。
ヨー素は主な甲状腺ホルモンであるチロキン(サイロキシンともいう)の主要構成元素のひとつで、甲状腺に集まる性質をもつ。セシウム137は骨や筋肉、ストロンチウム90は骨に沈着する性質がある。
子どもに危険なヨー素131は、あらかじめヨー素剤を服用して甲状腺を正常なヨー素で飽和しておけば、新たに入ってきたヨー素131は受け付けないが、ヨー素剤にはそれなりの副作用があり、使用に注意が必要だ。チェルノブイリ事故ではこの処置が大幅に遅れたため、当時の子どもたちが今、晩発性の障害に苦しんでいる。詳しくは拙著『ハイテク事件の裏側』(NTT出版、1987)参照。
現在、福島第一原発では、燃料棒の冷却に躍起となっている(本稿第36回参照)。外部電源回復後の最大のポイントは、「残留熱除去系」と呼ばれる冷却システムの再起動であろう。このシステムは、原発の定期検査時、炉心の核反応を止めた際に発する熱を取り除くほか、燃料棒の貯蔵プールの冷却も行っている。
まずはこの残留熱冷却系が活かせるか、これを期待したい。
(多摩大学名誉教授 那野比古)