第32回「積極的な利用を考えたい公的研究機関」
2011年01月20日
つくば市にある産業技術総合研究所(略称・産総研)では、所内の基礎、応用、実用化の各段階にわたる研究開発のありさまを外部に公開する「オープンラボ」を開催している。昨年10月中旬に催されたオープンラボ2010では3500人以上の来訪者があったという。来訪者の内訳は大部分(88%)が企業で、残りが大学、他の研究機関など。
ここで注目したいのは、来訪企業のうち、従業員が50人未満の中小企業が450人超、来訪企業の約15%を占めている点だ。産総研の前身である電子技術総合研究所(同・電総研)の時代には、国の中枢的な研究機関として敷居が高く、中小企業が気軽に訪ねる雰囲気ではなかった。産総研ではこの敷居の高さを低め、中小企業やベンチャー企業への門戸を開く努力を進めている。それどころか産総研の中から研究成果をベースとしてベンチャー企業としてスピンオフすることを積極推進している。この場合“産総研発”のお墨付きすら出している。
公的研究機関は産総研など国の研究機関のほか、都道府県などがそれぞれ研究機関を運営している。これら機関では、一般の企業との共同研究開発、材料・製品試験サービス、開発や実用化に向けての助言などが行われている。有料ベースだが、金額は極めてリーズナブル。県などが催す新技術や新製品の開発に係わるさまざまなコンテストなどで入賞した企業については、県の研究機関の利用で費用減免措置が講じられているところも少なくない。
現実の問題として、中小企業いわんやよちよち歩きのベンチャー企業が、自社内に材料や部品、製品の試験評価装置を導入することは不可能。これが特殊で高価というばかりでなく、正常に動作させるための操作要員もいないという問題がある。そのような悩みを解決してくれるのが、身近にある県などの公的研究機関だ。
分析や試験の依頼は、単に結果を知るだけではなく、当該研究機関の研究者からさまざまな専門的なアドバイスを受けられるという利点もある。
公的研究機関との共同研究開発という道もある。この場合は契約が必要で、当然研究開発費の負担は求められる。自社内で解決が難しい案件については共同研究開発という方法は極めて有効な手段だが、そこまで大掛かりな話になる前に、材料、部品、製品などの分析・試験分析で利用を考えるべきであろう。
公的研究機関といっても、すべての分野をカバーしているわけではない。それぞれが地方の産業特性に従った専門分野をもっているケースも多い。たとえ企業が立地する地域以外であっても、そのようなニーズがあれば他県の公的研究機関の門を叩く途が閉されているわけではない。
公的研究機関、あるいは大学の研究機関も、特化した専門分野をもつことによって差別化を図ろうとする動きも顕著になっている。例えば九州工業大学は縦、横、高さが各50cm以下の超小型衛星の宇宙環境試験に特化した試験センターをオープンさせている。
(多摩大学名誉教授 那野比古)