第27回「時代を変える動きに共感、ベンチャー学会」
2010年11月25日
先日、東京・渋谷で、日本ベンチャー学会(JASVE)の初代会長、清成忠男・現特別顧問(元法政大学総長)の叙勲(瑞宝大綬章)を祝う会が、同学会の設立・運用に寄与のあった20名ばかりの有志で開催された。ベンチャー学会は1987年の設立で、ベンチャー企業および一般企業における企業家活動、アントレプレナーシップに関しての理論・実証・実践にかかわる調査研究とともに、産学協同の推進、企業家活動の支援を進めるのが目的である。
この祝賀会には、VEC(ベンチャーエンタープライズセンター)の理事の中で、下條武男・日本コンピュータ・ダイナミクス社長、秦信行・國學院大學教授、それに筆者の3名が出席していた。これはとりもなおさず、ベンチャー学会とVECの係わりの深さを示すものでもあった。
VECとベンチャー学会との間では、ベンチャー企業の育成に関して提携を模索する動きがあったが、これは実現には至っていない。
ベンチャー学会の創設には障害がなかったかといえば嘘になる。ベンチャー学会は学会とはいえ単なる研究者の集まりではなく、広く企業、金融機関、行政関連の人たちにも参加を呼びかけ、ベンチャー育成を核としたネットワーク作りを目指すものであったが、障害のひとつは、このような組織が果たして学会といえるのかという批判である。あるいは改めて学会なる組織を立ち上げなくとも、既存の関連団体の中に設立した方が効率的という意見もあった。そのほか数多くの壁を含め、清成さんは労を惜しむことなく、もつれ糸をほどくように個人、団体ひとつひとつと面談、誤解点を解いていった貢献は極めて賞賛に価する。
ベンチャー学会の方向性、学会をとりまく企業でいえばステークホルダーと、流行りの言葉でいえばどのような戦略的パートナーシップを打ち立てるべきかを話し合う重要な会議が東京・浜町のしもたや風和風洋食屋で開かれたことがあった。参会者は、元文部大臣の有馬朗人・参議院議員、清成さんを中心に、千本倖生・イー・アクセス社長、日刊紙の代表などで、筆者も参画させて頂いたが、清成さんは学会の主旨、夢を熱心に語り、非常に貴重な助言を得た。この話は前述祝賀会で、清成さんの口からたぶん初めて公表された。
余談だが、この洋食屋、実は太平洋戦争終結時に、人知れぬ、重大な舞台となった。日本海軍上層部有志が極秘裏にここに集い、終戦の詔勅の草案を練ったという。隣接している隅田川には一隻の内火艇が―。血気みなぎる反対派の襲撃に備えての措置であった。この会合はその草案が練られたまさにその部屋で行われた。時代を変える動きが、参会者の胸にこみ上げる場所でもあった。
(多摩大学名誉教授 那野比古)