第三部(参考)  I 企業価値

 このように通常は資本政策(のファイナンスのタイミングと金額)に企業価値が与える影響を考えるのだが、この逆に企業価値に資本政策が与える影響も考慮する必要がある。例えば、スタートアップの段階から、その事業の有力なユーザーが出資しているとか、技術評価・育成に定評のあるVCが出資しているなどの状況があれば当該事業の将来のリアリティーが高まり、企業価値評価には大きなプラス要因となる。

 「どの時点でキャピタルゲインを得るのか?」という点は事業の種類によっては、非常に重要な要因である。通 常キャピタルゲインは株式公開時点だけで論じられるが、近年のベンチャー企業の裾野の広がりとファイナンス手法の多様化は必ずしもIPOだけを前提として論じる必要がなくなっている。キャピタルゲインとは、これまでは取得価格を上回る実現益を指していたが、本来はその株式の保有者が期待する将来収益の割引現在価値よりも、その時にオファーされた価格が高いときに生じることになる。この将来収益のとり方は、所有者と所有比率によって変わり、配当のみを期待する場合から、財産(B/S計上項目だけではない)処分権を持つ場合や、企業そのものを買い手の事業に取り込む(合併等)場合など様々な値を取るが、事業の種類によっては明らかに「まとめ売り」の価値が高い場合がある。

 例えば、「ハイテク技術のシード段階の開発を完了した段階で、今後IPOして量産化をするのか?」「新薬開発をするバイオベンチャーが創薬段階以後も行うのか」を考えた場合、IPOという選択肢ではなくバイアウトという方法も視野に入るだろう。

 研究者であるオーナーが、産業化のために自分の得意でない領域に傾注するコストとリスクや、既存の大手のライバルたちと消耗戦を行うデメリット、株式公開会社となって固定費を維持できるほど急速なマーケットの成長が期待できないなどの理由によって、しばしば株式公開ではないキャピタルゲインを考慮する必要がある。この時の企業価値は正に買い手によってオファーする価格が変わることになる。それぞれの買い手が考える価値は一物一価ではないし、株式公開における不特定多数の投資家よりは、より多くの情報を有している。その価格が、IPO時点の株価より高い(と考えられる)場合は、オーナーの経済的動機からは当然にバイアウトを選択することが有利になる。しかし、予想価値よりも低い場合や、今後も所有権を持って事業に継続的にコミットする意欲を経営者が持っている場合には、IPOを選択することになるだろう。株式公開時点ではキャピタルゲインは売出等で一部が実現するだけだが、バイアウトの場合はより多くのキャピタルゲインを一時期に手に入れることになる。

 今日のように株式公開の新市場が誕生してIPOの選択肢が増えた状況では、ベンチャー企業の早期公開も可能な状況となり、キャピタルゲインをどの時点で(かつどのくらい )取るのかということは、従来以上に多くのベンチャー企業が早期に対処すべき課題となっている。

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