アジア・スタートアップ通信 Vol.7 「杭州の躍進 」

アジア・スタートアップ通信 Vol.7

「杭州の躍進 」

 

杭州の勢いが止まらない。

中国のスタートアップ中心地と言えば、北京と上海、それを深センが追っている、というイメージを持つ人が多いかもしれないが、ここ数年で杭州が目覚ましい変貌を遂げており、まさに地殻変動が起きている。

 

China Money Networkによると、現在中国には137社のユニコーン企業(時価総額が10億ドル以上の未上場企業)が存在し、すでに米国を上回っている。その137社のうち87%が北京、上海、杭州、深センの4都市に集中し、時価総額でいうと95%を占める。

ユニコーン企業数でいうと北京は60社とぶっちぎりであるものの、それに続く上海(31社)の次にくるのは深セン(12社)ではなく杭州(16社)となっている。時価総額でいうと、今年5月に杭州に本拠を置くメガ・ユニコーン企業であるアントフィナンシャルが最新資金調達ラウンドで1500億ドルと評価されたこともあり、その影響で杭州のユニコーン企業の時価総額合計はなんと北京を上回っている。アントフィナンシャルの時価総額を除いたとしても、上海よりも大きい。

 

(「China Money Netwok」のデータをもとに筆者作成)

 

筆者は今年7月に杭州で開催されたTechCrunchカンファレンスで登壇するために杭州を訪れ、杭州の発展ぶりを肌で実感した。以下、なぜ杭州が上海の地位をも脅かすほどのスタートアップ中心地になってきているのかについて、いくつかの理由をまとめてみたいと思う。

 

アリババのお膝元

深センがテンセントのお膝元であるのに対して、杭州はアリババのお膝元である。アリババが杭州のスタートアップシーンに与える影響は絶大である。アントフィナンシャルを筆頭に、アリババクラウドや口碑、盒马鲜生、最近ではHelloBikeなどのアリババが出資する数々のメガベンチャーが勃興しており、一大経済圏ができている。これはアリババの巨大な資金力だけでなく、関連企業同士の好循環の事業シナジー、アリババや現地の名門校浙江大学のエンジニアリング人材が土台となっている。まさにアリババ城下町であり、アリババ会長のジャック・マー氏は市民にとって神格化された存在となっている。

 

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(アリババ本社、筆者撮影)

 

地方政府の積極的なイノベーション政策

ここまでのスピードで発展したことの背景には、地方政府のトップダウンのイノベーション政策の功労が大きいと言われている。

例えば、杭州のシリコンバレーを謳うドリームタウン(夢想小鎮)は1,000社以上のスタートアップやアクセラレーターが集まる一大集積地である。起業家を取り巻くエコシステムが完備され、ここから多くのメガベンチャーが羽ばたいている。

 

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(ドリームタウン、出典:Shanghai Daily)

 

また、地方政府は海外人材の誘致に非常に積極的だ。これは在外中国人の帰国組だけでなく、中国系以外の外国人人材も含む。杭州市政府は市内で起業する外国人に最高1億元(約17億円)を補助するなど、優秀な外国人材の誘致を推進する新政策を展開している。このような地方政府や地元企業の強力なバックアップもあり、杭州は2017年、人材純流入および海外人材純流入で中国の都市の中で首位となった

 

今回の杭州滞在中に、筆者は知り合いが創業したスタートアップを訪問した。この会社は元々アメリカで創業したものの、杭州市のスタートアップ誘致政策をうまく利用し、本社を杭州に移転した。以下の写真のようなおしゃれなプライベートオフィススペースが、杭州市の支援で1年目はなんと無償だというのだからすごい。スタートアップ誘致政策を行う地方都市は世界に無数とあるものの、杭州においては浙江省、杭州市、アリババなどの地元企業など様々な主体が他を凌駕する規模で集中的に支援政策を実行しており、それが実際うまく機能している。

 

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(杭州のスタートアップのオフィス。筆者撮影)

 

上海への近さと生活環境

杭州は上海から電車で1時間の距離にあり、上海と杭州の人の行き来は頻繁である。金融および商業センターの上海との近さは杭州の一つの魅力である。杭州でスタートアップに勤務する中国人の若者によると、杭州は上海に比べてまだ家賃も安いので、起業に取り組む若者にとっては住みやすい街だという。そのため、最近では上海からも起業家人材が多く流入しているようだ。

自然に恵まれ風光明媚な杭州は、近場で休暇を過ごすにはうってつけの場所で、昔は上海のビジネスマンの裏庭的な位置付けにあった。しかし、今はスタートアップの勃興ぶりでは上海を凌ぐほどの勢いを見せている。何と言っても人口は杭州だけで950万人もいるのだ。

杭州は事業機会およびビジネスエコシステム、そして恵まれた生活環境の両方を兼ね揃えており、住民の幸福度指数は中国の都市で最も高いと言われている。中国の富裕層や海外で教育を受けた人たちは仕事だけでなく生活の質も重視するようになってきていることからも、杭州は今後も優秀な人材を惹きつけ、引き続き勢いを増していくことだろう。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのフィンテック系スタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーやアジアの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

 

                                                                                                                      (吉川 絵美)