アジア・スタートアップ通信 Vol.6 「中国モバイルウォレット事情〜決済の枠を超えたサービス業界への影響」

アジア・スタートアップ通信 Vol.6

「中国モバイルウォレット事情〜決済の枠を超えたサービス業界への影響」

 

中国ではここ数年の間にAlipayやWeChat Pay等のモバイルウォレットが凄まじい成長を見せている、と言われて久しい。しかし、そうは言われても、それが意味するところがピンと来る人はまだあまりいないかもしれない。日本にだってSuicaなどのプリペイドカード(最近ではモバイル対応)があるじゃないか、と。

 

筆者は仕事柄、アジア各地に足を運ぶ機会が多く、中国にもたまに行くが、実際に現地でこれらのモバイルウォレットが決済の枠を超えて社会にインパクトを与えているのを実感している。

 

ひとつ例を挙げてみたい。
先月、巨大中国IT企業の筆頭である騰訊(テンセント)のお膝元である深センに出張で訪れた。モバイルウォレット業界では数年前にはAlipayが他を圧倒した存在だったが、近年は騰訊が提供するWeChat(メッセージングアプリ)のペイメント機能であるWeChat Payが猛追している。WeChatはそもそも多くのユーザーがいて、ソーシャルな観点からのP2Pペイメントにスムーズに移行できたため、驚くべき成長を見せている。

 

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深センの街並み (Source: Wikimedia Commons)

 

このWeChat Pay、モバイル上で友達同士で送金できるだけでなく、オフラインまたはオンラインの店舗でも使用できる。その使用範囲は急拡大しており、Alipayとは熾烈な競争を繰り広げている。

 

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WeChat Payのアプリ画面 (Source: Webcertain TV)

 

WeChat Payが単に決済を簡単にするだけでなく、既存のサービス産業のあり方を大きく変える可能性を秘めていると感じたのは、今回の出張でランチのために同僚とふらっと近くのレストランに入った時である。

 

店に入るなり、自分たちでテーブルを探して着席すると、テーブルに貼られているQRコードに目がいった。「WeChatで注文すれば、さらに速くお料理を提供できます」と。

 

12.19③

レストランのテーブルに貼られているQRコード(Source: 筆者撮影)

 

WeChatを立ち上げてQRコードを読み込むと写真付きのメニューが立ち上がり、そのまま指でタップして注文ができる。そして、もちろんそのままWeChat Payで決済ができ、その注文情報はダイレクトに厨房に行くので、料理もすぐに作られて運ばれる。

 

これまでは、客が着席してから接客係がメニューを運ぶまでの時間、注文を取りに来るまでの時間、注文を厨房に伝えるまでの時間(電子化されていない場合)、客が食べ終わった後に伝票を渡すまでの時間、支払いの時間などがかかっており、それに伴い人件費もかかっていた。それがWeChatを取り入れることで全て削減される。客のターンオーバーも高まり、オペレーションの効率化が進む。
客としても、それぞれのステップで接客係を待つ必要がなくなるので、忙しいランチ時などはささっと食べられるので嬉しい。どちらもWin-Winであり、無駄が省かれることによって社会全体の効率化に寄与できる。

 

それだけではない。WeChatによってレストランはそれぞれの顧客とダイレクトにオンラインで繋がることができるのだ。これはマーケティングキャンペーンなどに使え、とてつもなく貴重なマーケティング資産となる。これまではせっかくきてくれた顧客なのにオンラインで「繋がる」ことが難しかった。WeChatで繋がることができれば、例えば「また来てください」とクーポンを送ったり、新メニューの宣伝などダイレクトにできるようになり、的中確率が低かったマス広告よりもよりターゲット化されたマーケティングが可能となる。

 

日本でも店側が用意したiPadで注文可能なレストランは増えているようだが、それと、ソーシャルアプリのWeChatでできることの意味合いは全く異なる。

 

以上はWeChatとWeChat Payがもつ可能性のほんの一例である。このようなサービス産業を大きく変えるような動きが、今まさにいろんな分野で地殻変動的に起こっている。

 

今中国で起こっているFintech革命は単にお金の支払いだけではない、ということは覚えておきたい。そして同じような動きが日本のあちこちで起こるようになるのは一体いつになるだろうか・・・?

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのフィンテック系スタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

吉川 絵美

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<ご参考>
2017年12月18日付 日本経済新聞の社説に、VEC四半期投資動向調査結果が引用されております。
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO24748960Y7A211C1PE8000/