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コラム-アジアの勃興-

アジアの勃興

理事長
市川隆治      

 

 7月19日に日本アセアンセンターでリブライト・パートナーズ(株)蛯原健代表取締役のプレゼンテーションを拝聴した。同氏の話を聴いたのは2回目であるが、毎回アジアのスタートアップの力強い息吹を感じる。シンガポールに居を構える同氏の内側からの見方は大変参考になる。私自身シンガポール、インド、タイ、台湾には出張ベースで訪問したことがあるが、それでは見出せない生の現地事情は是非多くの人たちに共有してほしいと思い、今回同氏の了承を得て、その概要を私の印象のままに記すこととした。

 

1.Leapfrog
 リアルな小売店舗を飛び越えていきなりeCommerceに、銀行やクレジットカードを飛び越えていきなり電子マネーやビットコインに、というように蛙がピョンピョン飛ぶのになぞらえた経済現象の飛び級をLeapfrogという言い方を現地では盛んにしているという。日本では小売業界が現存するためにeCommerceがなかなか浸透しないのに、アジア諸国では小売店舗網を整備することなく、いきなりeCommerceが発達している。

 

2.スマートフォンの普及
 それを支えるのがスマホの普及であるが、中国のスマホ人口は既に米国の3倍になっている。今後大きくそれに近づいていくであろう国がインドということである。折しもインドのモディ政権は「Digital India政策」を推進しており、大胆な高額紙幣の廃止政策とも相まってスマホによる支払システムは急速に伸びているとのことである。

 

3.インターネット内からインターネット外へ
 世界のトップ10未上場企業を分析すると、かつてはすべてインターネット内のビジネスであったが、今は車を使うUberや、住宅をホテルとして使うAirbnbのように、ネットとそれ以外の要素を組み合わせた「インターネット外」のビジネスが多くなってきているという。この点ではネットビジネス(SNS、ゲーム、メディア、情報通信等)で遅れを取ってしまった日本企業にも、得意とする物流、医療、ロボット等をネットと組み合わせたビジネスモデル(例えば遠隔医療)とすることでチャンスを見出せる可能性があるのではないかということである。かつては学生のプログラマーであれば起業して成功できたが、今は技術をもったベテランでないと成功は難しくなってきている。

 

4.Americanizationからアジアシフトへ
 ユニコーンの企業価値ベースで、依然として米国が55%を占めるものの、中国29%、インド6%をはじめとして、アジア全体では38%を占めている(CB Insights, 2016.8.23)。今後スマホ人口の急速な拡大が見込めるインドには熱い視線が集まる。ちなみに、ユニコーン起業家の属性をみてみると、中国では理系出身者が多いのに比べASEAN諸国や日本では文系出身者が多いという特徴があるそうである。

 

5.安価な賃金目当てから市場としての価値
 これまでアジア諸国は安価な賃金のため、世界の工場との位置づけであったが、徐々に賃金水準も上がり、むしろ現地で生産した製品を人口の多い現地で消費する、「地産地消」という考え方に切り替えるべきではないかということである。ちなみに生産にはロボットが活躍する時代で、安価な賃金という価値は終焉を迎えたとのこと。

 

6.資金供給元
 ASEAN諸国におけるリスクマネー供給元は政府系、民間ファンド、エンジェルを含めシンガポールマネーということになるが、最近は圧倒的な規模を背景に中国の2巨頭、Tencent及びAlibaba Groupの資本が飽和状態にある中国市場から更なる成長を求めて急速に中国以外のアジア諸国に進出しているということである。

 

7.テック系のイノベーションの源泉
 シンガポールのA*Start (Agency for Science, Technology and Research) 及びインドのインド工科大学 (IIT) には新たなイノベーションが期待できるとのことである。特にインドは世界最大のIT人材輩出国であり、既に米国の著名なスタートアップ企業幹部にインド系の人材が名を連ねており、米国との活発な人材移動も見られ、「インド・マフィア化」現象とも称される状況となっているということである。