シリコンバレー通信 Vol. 20 「子育て期に突入するミレニアル世代に対応するシリコンバレー企業」

シリコンバレー通信 Vol. 20「子育て期に突入するミレニアル世代に対応するシリコンバレー企業」

 

日本では出産後も女性が職場復帰しやすい環境を整えるべく様々な取り組みがなされている。それに対して、「アメリカは共働き家庭が多く、ワーキングマザーにとって働きやすい環境だ」というイメージを持っている人は多いと思う。アメリカの職場が比較的フレキシブルで融通が利きやすいという側面ではそう言える部分もあるが、産休・育休という制度面からいうとアメリカは先進国の中でも最も遅れていると言われているのが実態だ。そんな中、ここ2〜3年で新たな産休・育休のプログラムを導入するシリコンバレー企業が増えてきておりトレンドとなっている。

 

下がり続ける米国女性の労働参加率

過去10年間、日本を含む多くの先進国が女性の産休・育児休暇制度の拡充および職場復帰のための環境づくりに取り組んできた結果、女性の労働参加率は多くの国で軒並み上昇してきている。しかし米国では1993年に制定された育児介護休業法でようやく12週間の無給の産休・育休制度が制定されてから、大きな制度拡充の動きはなく、これ以上の拡充については州レベルまたは企業レベルに任されているのが現状だ。これらの状況も一因となって、Chart1で見られる通り、25〜54歳の女性労働参加率はここ15年間の間に緩やかに低下し、上昇する日本やOECD平均とは反対の動きを見せている。この間、アメリカ全体の労働参加率が下がっていることも背景としてあるが、他国で女性の労働参加率が相対的にも改善している状況と比べると、その深刻さが際立っている。

 

シリコンバレー20170117

Chart 1: 日米の女性労働参加率(OECDのデータをもとに筆者が作成)

 

先進的なカリフォルニア州

カリフォルニア州は米国の中でも最も産休・育児休暇制度が進んでいる州として有名だ。産前・産後合わせて10週間、給料の最大55%が産休中の母親に支給される。それに加えて、男女ともに6週間の育児休暇が与えられ、これも給料の最大55%が支給される仕組みになっている。つまり、出産したワーキングマザーは4ヶ月間給料の一部をもらいながら産休・育休をとることができる。アメリカの中では最も進んでいるとはいえ、先進国の中では普通の水準だろう。

さらに、昨年サンフランシスコ市が、従業員の育児休暇において残りの45%を企業が負担するように義務付け、話題となった。これによって、男性でも6週間完全有給で休暇を取り育児に専念できるようになったのだ。

 

さらに先を行くシリコンバレー企業 〜ミレニアル世代への対応〜

これに加え、シリコンバレーのテック企業は独自に産休・育休制度を拡充している。GoogleやAppleは母親となった従業員に3〜4ヶ月の有給の産休・育休、父親は1ヶ月半近くの有給の育休を与えている。Facebookは、最近父親となったマーク・ザッカーバーグの影響もあってか、男女関係なく4ヶ月の有給の育休を認めている。Netflixに至っては、1年間有給で男女ともに育休取り放題という制度を導入して業界に衝撃を与えた。

 

これらのテックジャイアント企業と熾烈な人材争奪戦を繰り広げているスタートアップ企業においても同様に産休・育休の拡充を福利厚生プログラムの一環として導入する会社が増えている。筆者が勤務するサンフランシスコのスタートアップでも3ヶ月完全有給の産休制度を提供しており、採用活動の中でも業界最高水準の産休制度をアピールしている。

 

これらの一連の動きは、シリコンバレーでテック系スタートアップの興隆のバックボーンとなってきた「ザッカーバーグ世代」 が子育て期に突入してきたことによる意識や要求の変化が起因している。彼らミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)は、表面的な給料よりも、生まれてきた子供と質の高い時間を過ごすという「経験」を重視するのだ。

 

広がる格差

このように、シリコンバレーでは、企業レベルで人材獲得競争ための武器としてよりよい産休・育休制度を提供し始めている。一方で、米国の他の地域でこのような競争市場の中にいない企業は特別な独自の制度をオファーする動機もないのが現状だ。

筆者のビジネススクールの同級生の友人はシアトルの小さいブティック系戦略コンサルティング会社で勤務しており、現在妊娠8ヶ月だ。ワシントン州は、カリフォルニア州のような州の産休・育休制度がないため、連邦政府の育児介護休業法しか適用されない。しかも、この育児介護休業法は従業員が50人以上の組織にしか適用されないのだ。彼女が勤務する会社は従業員が50人以下であるため、連邦政府の最小限の産休・育休制度も保障されないため、産後は限りある有給を使って休みを取るしかないという状況になっている。こんなことが先進国アメリカであってよいのか?と耳を疑ってしまったが、これが現状なのだ。幅広い州で小さい企業にも充実した産休・育休制度が適用されるためには、連邦政府レベルでの改革が必要となる。

 

トランプ政権誕生で格差社会が浮き彫りになったアメリカだが、収入面だけでなく、このような福利厚生においてもシリコンバレーとその他で大きな差が出はじめてきている。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

 

(吉川 絵美)