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アジア・スタートアップ通信 Vol.5 「アジア各国の起業家精神比較」

アジア・スタートアップ通信 Vol.5 「アジア各国の起業家精神比較」

 

これまでの本コラムシリーズでも見てきた通り、アジア各国での起業活動は年々盛り上がりを見せている。起業活動というと、とかく、ベンチャー投資額などに目がいきがちだが、起業活動の土台として、各国における起業に対する潜在意識や起業家精神の度合いに目を向けると、より長期的な展望を想像することができる。

 

そのような各国の起業家精神について詳細な国際調査を行っているがGEM調査(Global Entrepreneurship Monitor)であり、欧米の研究機関の起業関連の研究者を中心に1999年から調査が行われている。日本でも平成25年度まではVECが国内の研究者と連携をして調査協力を行っている。

今回のコラムでは、GEMの公開データをもとに、アジア各国の起業活動量、そして起業家精神に関する幾つかの指標を比較して、各国の違いを浮き彫りにしてみたい。

 

まず、各国の起業活動の水準を比較する指標として 、GEMでは総合起業活動指数(Total Early-Stage Entrepreneurial Activity: TEA)を調査している。これは、起業準備中(まだ給料が支払われていない状態)の起業家、および会社を起業して給料を受け取り始めてから3.5年未満の起業家が、成人人口に占める割合を示した指標だ。アジアの主要各国のTEAは以下の通り。参考までに、起業活動が盛んと言われている米国の数値も示した。

 

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Figure1: 総合起業活動指数(最新のGEMデータに基づき筆者作成)

 

これを見ると、面白いことに、東南アジアのインドネシア、フィリピンなどは米国よりも起業活動量が多く、日本はマレーシアに次いで低いことが分かる。

 

もっとも、起業活動量は、経済の発展具合にも影響を受ける。経済発展度合いが低い国では、企業による雇用機会が少ないため、生活のために必然的に(スモールビジネスを含む)起業活動が高まるのに対して、発展度合いが高い国では事業機会を活かすための起業となる。このように、起業活動の質は異なってくるため、一概には比較はできない。日本も戦後は起業活動量が大きかっただろうが、今では、同じく先進経済である米国やシンガポールから大きく遅れをとっている。

 

さらに、起業家精神指標を比べると各国の違いが浮き彫りになってくる。以下のレーダーチャートは、各国で「事業機会の認識」「失敗に対する怖れ」「起業する意図」「(自らの)起業能力への自信」についてインタビューした結果を指標化したものである。

 

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Figure2: 起業家精神の国別比較(最新のGEMデータに基づき筆者作成)

 

日本は「失敗に対する怖れ」が他国に比べて圧倒的に大きく、また事業機会の認識や起業能力を有しているという自信も顕著に低い。反対に、インドネシアとフィリピンはすべての指標が起業先進国である米国よりも高くなっている。これら両国では失敗に対する怖れが少ないのに加えて、自らの起業能力への自信も高く、起業する意図を持つ人が多い。これは、ここ数年で目覚ましい経済成長を経験していることによる将来展望への楽観視や、そもそもの国民性によるものかもしれない。筆者もフィリピンやインドネシアでビジネスをしてきた経験から、現地での「明日はもっとよくなる」というポジティブなマインドセットや、なんとか一旗揚げたいという起業家たちの熱量を肌で感じてきた。

一方で、シンガポールは日本に続く保守性 をみせ、中国は中間といったところである。

特にインドネシアとフィリピンはASEANの中でも人口大国で、両国合わせるとGDPはASEANの半分近くに達するため、ASEAN経済圏への影響は大きい。今後、経済が成熟するにつれて企業での雇用が増え、両国での起業活動量は表面的には減っていくだろうが、根本的なポジティブな起業家精神や文化の土台があることを考えると、今後も活発な起業活動が期待されるのではないだろうか。

一方で、圧倒的に起業家精神が弱い日本は、今後起業家精神を鍛えるべく、より一層の起業家教育や啓蒙が望まれる。

 

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本コラムシリーズでは、シリコンバレーを本拠に、イノベーション事業化支援や新規事業の立ち上げを行っている筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

吉川 絵美