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コラム-熱きインド-

熱きインド

理事長

  市川隆治

 

 「昨日発表された統計によれば、2015年度(2015年4月~2016年3月)のインドの経済成長率は7.6%で、世界経済が鈍化している中でインドは成長を続けている。」

 これは6月初め、一般財団法人インド経済研究所の招きで来日されたArun Jaitleyインド財務大臣の講演冒頭の力強いことばである。モディ政権が誕生して2年。農業国家にとって重要なファクターとなるモンスーンの良し悪しによる経済への影響もあるが、数々の改革の成果という側面も大きい。目下財務大臣として最大の課題は新しい間接税であるGST(Goods & Service Tax)の導入ということだ。現在インドでは州により間接税率が異なるとか、課税の重複(tax on tax)があるとか、不合理な税制となっており、これを改正するための憲法改正案が既に下院を通過しているが、ねじれで野党勢力が優勢な上院を通過させることができるかどうかに世界の注目が集まっている。インドでビジネスを展開しようとする外国企業にとってもこれが成立してインド全体が共通市場になるかどうかは大きな問題である。

 

 5月下旬に訪印した際にはBandaru Dattatreyaインド労働雇用大臣のスピーチを聞くことができた。

「雇用環境を良くするために、現在43本の労働関係法があり複雑となっているので、その改正を検討している。」

こちらも前向きな改革に意欲的であった。43本の多くは独立前からそのまま引き継いでおり、ことばの定義も法律によって異なったり、ライセンスも州ごとに取得しなければならない等、州境を越えたビジネス展開には障害となっている。また、現在生産労働人口の92%がinformal workerで、農業を中心に、労働契約もなく、社会保障も受けられないまま働かされており、これをformal workerに転換していくことが、インドの近代化にとって重要な課題となっている。

 

 ライバルの中国は長く続いた一人っ子政策(最近子供はふたりまで許容すると変わったようであるが)のために人口構造は下がすぼんだ釣鐘型となり、これから急速な高齢化社会を迎えるのに対し、インドはきれいなピラミッド型となっており、今後10年~20年は人口ボーナスの恩恵を受けられると言われている。これには、娘ではなく息子に看取られないと天国に行けないという宗教的な感情もあり、男子が産まれるまで子供が増えるということもあると聞いた。

 

 もうひとつの課題はカースト制度であろう。名前を見ればどのカーストか分かると言われ、上司が自分より下のカーストの人だと労働意欲が失せるので人事には注意しなければならないということも聞いたことがある。これについてはカーストによる差別を禁止する法律ができ、是正に向けて動いているということであるが、永年にわたり染みついた根の深い問題であろう。

 

 日系企業にも、一旦撤退したものの良いパートナーを見つけ再進出を果たしたところもあり、本社の苦戦を尻目に、うまく行けば年率10%の成長も夢ではないと言っていた。インドの未来は熱く、今はその産みの苦しみといったところであろうか。

 

 シリコンバレーにおけるインド人起業家の活躍は、その強固なネットワークとともにつとに有名であるが、インド政府としては彼らにシリコンバレーではなく、インド国内で起業してもらいたいところであろう。そのためにも古い殻を破る大胆な改革を進め、起業家が望むような近代的なビジネス環境を作ることが重要となっている。