シリコンバレー通信 Vol. 16 「株式型クラウドファンディングの幕開け」

シリコンバレー通信 Vol. 16    「株式型クラウドファンディングの幕開け」

 

2012年に米国で成立したJOBS Act (Jumpstart Our Business Startups Act: ジョブズ法)はベンチャー企業が資金調達を行いやすくするための一連の規制緩和法案であるが、その中でも目玉の一つであった「株式型」クラウドファンディングが2016年5月16日についに解禁された。

 

これまでクラウドファンディングと言えば、KickstarterやIndiegogoなどのポータルサイトで「寄付型」や「購入型」のクラウドファンディングキャンペーンは活発に行われてきたが、金融取引が絡む「株式型」のクラウドファンディングはSEC(米国証券取引委員会)が詳細規則を策定し施行するまでは不可能だった。今回の施行により、適格投資家に当てはまらない個人の投資家(Non-accredited investors)もベンチャー企業に株式投資をすることが可能となり、ベンチャー企業の資金調達の可能性が飛躍的に広がることとなった。

 

JOBS Actが成立してから、株式型クラウドファンディングについては約4年間の月日をかけて規則策定が行われてきたが、その道のりは決して平坦ではなかったことは、以前のコラムでもお伝えした通り。個人投資家が対象である本件については投資家保護をミッションとするSEC(米国証券取引委員会)はことさら慎重にならなければならなかったのだ。

 

今回施行された規則には以下のルールが含まれる。

• 株式型クラウドファンディングで資金調達するベンチャー企業は12ヶ月の間で$1M以下の資金を調達できる。

• 株式型クラウドファンディングの公募にはSECから許可を得たオンラインポータルまたは仲介業者を使わなければならない。

• 公募するベンチャー企業は米国本拠の法人でなければならない。

• 特定の財務情報を開示しなければならない。調達額によっては、財務諸表は会計士の監査を受けなければならない。

• 定められた報告義務に従う必要がある。

• 適格投資家と非適格投資家から投資を受けることができる。投資家は収入または純資産によって投資できる金額が制限される。(例えば、年収または純資産が$100k未満の投資家は、年収か純資産のうち低い方の5%までしか投資は出来ない、など)

 

この規則には不満の声も聞かれる。登録や報告義務が煩雑でコストがかかるにもかかわらず、最大調達額が$1Mとは少なすぎるという点がそのひとつである。コストは会社組織がどれだけ複雑かとか調達額にもよるが、Bloombergの記事では、例えば、$1Mを調達しようとしているウィスキー製造ベンチャーは、$40k〜$50kのコストがかかると想定されるほか、$100kを調達しようとしているハワイのコーヒープランテーション会社は$1k〜$20kの間のコストがかかるという例を挙げている。

 

Wall Street Journalによると、 5月16日午後の時点で自主規制機関である金融取引業規制機構(FINRA)は9社のポータルを承認したとのこと。さらに10社の仲介業者が当局に参加する計画を示しているとのこと。二大ポータルサイトのひとつであるKickstarterは今のところ株式クラウドファンディングの機能を追加する予定はないとのことだが、そのライバルサイトであるIndiegogoは予定をしている。

 

また、施行初日の午後6時までに17社のベンチャー企業が資金調達に必要な登録手続きを完了したとWSJは伝えている。生分解性歯ブラシのメーカーや高級宿泊施設運営会社、グルメ志向のドーナツ販売など様々な業態の企業が名を連ねているそうだ。17社という数は、当初想定されていた数よりは幾分控えめな数だったようだが、今後より公に認知されていくにつれて登録数も増大していくことが期待される。

 

今回の米国での株式クラウドファンディング解禁の動きは今後日本や諸外国でのルール策定に大きな影響を与えることが想定される。世界中でベンチャーバブル崩壊が間近かと警鐘が鳴らされる中、今回の動きがどのようにベンチャー業界の資金調達事情に影響を与えていくか、引き続きウォッチしていきたい。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポート

 

(吉川 絵美)