イスラエル通信 Vol.3 「日本企業のイスラエル進出状況 -動き出した日本企業-」

イスラエル通信 Vol.3 「日本企業のイスラエル進出状況 -動き出した日本企業-」

株式会社サムライインキュベート
代表取締役CEO  榊原 健太郎

 

 

イスラエルへの企業進出状況 -周回遅れの日本-

 世界の名だたる大企業が、イスラエルにR&Dセンターをはじめとする拠点を置いており、その数250以上といわれている。

 

 米国のIT関連企業を例にとると、IBM(1972年)、インテル(1974年)は、40年以上前にR&D拠点を設置し、その後、マイクロソフト、シスコシステム、ヒューレッド・パッカードなどが続いた。2000年以降も、オラクル、グーグル、アップル、フェイスブックなどがM&Aなどにより、R&D拠点を開設している。IT関連以外の業界でも、GE、ファイザー、ジョンソン&ジョンソンなどの大企業がR&D拠点を置いている。

 

 欧州企業も、シーメンス、フォルクスワーゲン、ドイツテレコム、SAP、メルクセノーラ(ドイツ)、ダノン(フランス)、ネスレ(スイス)、フィリップス(オランダ)、ユニリーバ(オランダ・イギリス)、BTグループ(イギリス)等がR&D拠点を構えている。

 

 アジア勢では、韓国のサムソン電子、LGエレクトロニクス、シンガポールのシンガポールテレコムも企業買収によりR&D拠点を設けている。特にここ数年、中国の動きが極めて活発で、アリババ、バイドゥなどが企業買収によりR&D拠点を開設している。

 

 こうした流れの中にあって、日本は大きく後れを取っている。イスラエルに拠点を置いている日本企業は、30社に満たず、それも駐在員を置く程度のところが過半を占める。比較的に古くから進出しているのは、三井物産、三菱商事といった総合商社と、京セラ(1990年AVS社と合併、その後連結子会社化)、ネミックラムダ(現TDKラムダ、1991年)、ロボットを製造している安川電機(1996年)といったところで、本格的なR&Dセンターは極めて少ない。

 

 私は、2014年7月に、テルアビブに居を移し、「Samurai House in Israel」(SHI)という、起業支援とVC業務を行う拠点を開設したが、SHIを訪れる外国人は、中国と韓国の人が圧倒的に多い。どちらも、母国のVCや政府関係者とスタートアップで、既にイスラエル企業に結構投資している人が多い。なぜ見学に訪れるかというと、「アジア人で、イスラエルに乗り込んでインキュベータ(起業支援)を行っているのは珍しい」という「珍しいもの見たさ」もあるようだが、「イスラエルのエコシステムを母国に持ち込みたい」という思いがあるようだ。中国は、われわれの事務所があるビルの対面に、インキュベーションセンターを作るそうだ。中国、韓国に次ぐのはシンガポールで、残念ながら日本人は少ない。
 アジア人ほどではないが、欧州の人も訪れる。フランスやイギリスの大使館の方から「どんな活動をしているのか」などとヒアリングされた。

 

 昨年のイスラエルのスタートアップへの総投資額(内外のVC・事業会社等からの投資合計額)は、約5,000億円(注1)で、うち中国が2割前後を占めるとみられている。

 

(注1) IVC Research Center資料によると、2015年におけるイスラエルのハイテク企業(スタートアップ)の資本調達額(内外のVC・事業会社・エンジェル等)は、4,428百万ドル(約5,360億円 1ドル=121円換算)で、うちイスラエルのVCからの資本調達額は、653百万ドル(約790億円)とある。
また、イスラエルのVCが2015年に開始したファンドの調達額は、約1,500百万ドル(約1,815億円)にのぼると見込まれる。

 

 

動き出した日本企業 -オープンイノベーションの更なる推進を-

 大きく出遅れた日本であるが、最近、「動きが出てきたな」と肌で感じている。
 まず、日本からSHIを訪問される企業の方、特に大企業の方が増えた。しかも、社長直轄の部署の方とか、役員クラスの方の訪問が多くなり、結論が出るのも早くなりつつある。業種的にも、IT関連だけではなく、自動車関係やヘルスケア関係など広がりを感じる。進出の狙いも、イスラエルをR&D拠点の一つとして明確に位置づけて、イスラエルのスタートアップとの業務提携を目指す(場合によっては、その先のM&Aも視野に入れて)といった具合に絞り込んできているようだ。

 

 最近の動きでは、1月26日に、ソニーがイスラエルの半導体企業Altair Semiconductor(アルティア社)を212百万米ドル(約250億円)で買収したというニュースを聞き、大変うれしく思った。少し前になるが、2014年2月に楽天が、スマートフォンなどの無料通話アプリ大手バイバー・メディア(登記上本社はキプロスだが、実際はイスラエルの会社)を9億ドル(約920億円)で買収したというニュースは、現地でも話題になったようだ。

 

 SHIも、2014年10月にトヨタIT開発センターと、2015年11月末には村田製作所ヨーロッパと「ハッカソン」を開催したが、イスラエル技術者の発想のユニークさや技術開発力については、相応の評価をしていただいたと思っている。また、日本の有力なスタートアップの中には、イスラエルの特色あるスタートアップと手を組んで、イスラエルにR&D拠点を求める動きもあるようだ。

 

 イスラエルのスタートアップは、自分の会社を売却することに拘泥しない。売却して得た資金で、また次の会社を興す、あるいは投資家となって他のスタートアップに投資しようとする。そうなると、M&Aの巧拙が問われることとなる。

 

 欧米企業は、M&Aに慣れており、結論を出すのが速いという。たとえば、欧米企業が数か月で結論を出すところを、日本企業は1年かかるという話を聞く。私見ながら、日本企業は、「絶対に失敗は許されないので恐る恐る取り組む」というイメージで、欧米企業は、「M&Aに失敗は付き物と割り切って臨む」というような印象を受ける。もちろん金額にもよろうが。

 

 いずれにせよ、日本企業がいきなりイスラエルのスタートアップと、業務提携なりM&Aを…と言うのは、やや唐突過ぎると思う。ます、ミートアップ(注2)で、お互いのニーズや考え方を知ることがスタートだ。イスラエルのスタートアップの価値観(自分たちが目指していること、実現したいこと)とそのスピード感を日本企業が理解するとともに、イスラエルのスタートアップも日本企業の考え方を理解することが大切だと思う。現在、日本の某大企業と具体的な話を進めているが、大企業の方から、「榊原さんは、結論を出すのが速い」と言われた。その私が、イスラエルのスタートアップから「もっと速く結論を」と迫られた話をすると大変驚いておられた。まずは、そこからスタートすることが重要だと思う。

 

 日本の大企業もここ2年ぐらいで随分変わった。スタートアップに興味をもつようになり、「本気で、オープンイノベーションに取り組み始めた」と感じている。スタートアップの文化とかやり方を見て、大企業も結構変革されていく、と思っている。

(注2) ミートアップ…時間、場所、テーマを決めて自由に発言するミーティング、交流会

 

 

私が実現したいこと、日本の起業家の皆さんへ

 「なぜイスラエルに?」とよく聞かれる。そのたびに「イスラエルは、①ゼロから1を生み出す創造性に溢れた人々からなる起業国家で、②失敗にも寛容で、再チャレンジができる風土があり、③国民もオープンで、親日的だから、競争の厳しいシリコンバレーより参入しやすいのでは。そして④世界を設計するようなスタートアップを育てて、イノベーションで日本の企業がもっと元気になれば…」と答えている。ビジネス的にみれば、これが本心である。
 ただ、私の実現したいことは、VCとして投資してただ儲けることではない。大言壮語と言われるかもしれないが、イスラエルであるいは近隣の国々で雇用を生み出し、各国民が経済的に豊かに暮らせるようになること。それが、ひいては近隣諸国の平和に繋がるはずであり、その実現こそ私の目指しているものだ。

 

 最後に、起業家の皆さんに一言。
 起業は簡単ではない。つらい局面に何度も遭遇する。その局面を乗り越える最後の拠り所、最後の踏ん張りは、「志=自分が実現したいこと」にトコトン拘ること、だと思う。
一緒に夢の実現に向けて、取り組んでいきたい。

 

※文中の(注)はVECによる。

 

3回にわたってお送りした「イスラエル通信」は、ひとまず今回で終了させていただきますが、今後もトピック等があれば、都度発信して参ります。