イスラエル通信 Vol.2 「イスラエルでの起業 -起業家はヒーロー、オープンで親日的-」

イスラエル通信 Vol.2 「イスラエルでの起業 -起業家はヒーロー、オープンで親日的-」

株式会社サムライインキュベート
代表取締役CEO  榊原 健太郎

 

 

業家はヒーロー、失敗は成功の元
 イスラエルでは、起業家はヒーローだ。日本で言うと、プロ野球選手やプロサッカー選手のように、皆の憧れの的である。子供が起業すると言うと、親は喜び、子供を褒める。子供が、起業もせずに、大企業へ行くと言うと、親は「ふふん」という感じで、日本とは真逆だ。
 イスラエルでも、起業をしても、成功する人はわずかであるが、失敗は問わない。重視するのは、「失敗から何を学んで、次に活かしたか」という点である。失敗をしても、それは次の発展につながるという考え方で、極端な言い方をすれば、「失敗するほど高評価」とすら言えるかもしれない。いく度かの挫折を経験し最後に成功した人は、皆から畏敬の念を持って見られる。

 

 

イスラエルの起業エコシステム  -Everyone knows everyone-
 起業家が、最初に資金調達する場合は、まずは、家族・親戚(親とか従兄弟等)、エンジェル(成功した起業家)からというケースが多く、エンジェルが投資するときに、当社のようなインキュベータが同時に出資することが多い。ベンチャーキャピタル(VC)からの調達は、次の段階となるが、OCS(注1)という国の組織が助成金を出す仕組みがあり、これが有効に働いている。なお、イスラエルにVCが誕生したのは、20年程前なので、その歴史は比較的新しいと言える。

(注1)OCS…Office of the Chief Scientist
1984年に、産業貿易労働省が、国内産業の研究開発を促進するために設置した組織で、積極的に企業の研究開発、
ベンチャー企業育成を支援している。
2014年11月には、日本の独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とイスラエル産業技術開発センター(MATIMOP…OCS傘下の執行機関)との間で「日イスラエル企業の研究開発協力のための覚書」が締結された。
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2014/1120/14a.pdf

 

 日本では、起業して成功し、お金を得ると、それで上がりと考える起業家が多いが、イスラエルの場合は、得た資金やノウハウをもとに、もう一度起業したり、VCを設立したりと、次の投資に向けて動き出す。イスラエルは起業家も多いが、それ以上に投資家も多く、日本に比べ、起業家の資金調達ルートは圧倒的に幅広いと言える。起業家を育てるというより投資家を育てるという意識が強いと思う。

 日本の場合、助成金は出すが、出しっぱなしで終わっているという感がある。これに対して、イスラエルでは、前述のOCSが助成金を出すが、投資先がM&A等でエグジットすると、税金と言う形で国に資金が還流されるので、OCSは、どれだけエグジットがあり、その結果、どれだけ国にお金が還流されるかに目配りをし、還流された資金を次はどこに投資するかと検討している。OCSは立派な投資家でもあると言えよう。この点は日本とは大きく異なると思う。

 

 日本で産学官連携が上手くいかないと言われているが、最大の要因は、官と学に起業経験者がいないことにあると思う。イスラエルでは、官も学も起業経験者が圧倒的に多い。たとえば、首相のネタニエフ氏は、コンサルティング会社勤務の経験を持ち、VC業務に精通している。今の経済大臣は2回エグジットを経験した起業家でもある。大学教授も起業経験者が多い。極論すれば、そもそも起業経験が無いと、国会議員にも大学教授にもなれないとすら言えるかもしれない。いずれにせよ起業経験者であるだけに、何事も話が早いという感じがする。

 

 もう一つ日本とイスラエルの違いを挙げるとすれば、イスラエルでは、様々な関係者がボランティアで(無償で)メンタリングを行っていることが指摘できよう。
たとえば大学で言えば、各大学にはインキュベーションセンターがあるが、その大学の卒業生は、その大学出身の起業家に全員ボランティアでメンタリングを行っている。また、成功した起業家は、スタートアップのメンタリングを行ったり、顧問としてその会社に入ったりするが、皆すべて無償で行っている。皆で、寄ってたかって支援していると感じで、スピード感もある。

 

 イスラエルでは、「Everyone knows everyone」と言うが、イスラエルの人は、とにかく人を紹介するのが好きで、ネットワークづくりに熱心だ。友達の友達が偉い人であったりするので、とにかく話が早いし、皆近しい関係にあると思う。
私も、2014年7月の茂木経済産業大臣のイスラエル訪問時と、2015年1月の安倍首相イスラエル訪問時に、二度にわたってネタニエフ首相にお会いした。他の国では、まず考えられないことと思っている。

 

 

シリコンバレーとイスラエル -オープンで親日的なイスラエル-
 イスラエルとシリコンバレーの違いは何かと問われると、少々戸惑うが、私見を交えて言うと、シリコンバレーは、いわゆるB to Cのサービスが多いと思う。これに対して、イスラエルは、B to Bのサービスが多く、業種的にもより幅が広いと感じている。ITセキュリティをはじめ創薬、医療、福祉、エネルギー、フィンテック、農業(海水淡水化、節水技術等)、ものづくりのようなテック系に加えて、最近では宇宙関係も活発になってきている。イスラエルのスタートアップがプレゼンする時には、わが社はこういう特許を持っている、こういう特許を申請しているというケースが多く、テクノロジー系の会社が多いなというのが実感。

 

 両地域のプレーヤーを見ると、シリコンバレーは米国人もいるが、今やインドや中国をはじめ各国からプレーヤーが集まっている。他方、イスラエルは、イスラエル内の人が中心、より正確に言えば、人口の7割強を占めるユダヤ人が中心である。そこには、ロシア系とかフランス系とか、○○系ユダヤ人という人がいて、ユダヤ人という大きなくくりの中で、考え方も異なる色々な国の人が混じっているという感じだ。

 

 イスラエルに来て痛感することは、イスラエルの人は、長いレンジでものを考えているということである。商品化できるのは、20年先かもしれないことに取り組んでいる。たとえば、今LINEが流行っているが、このコミュニケ―ションアプリの基となる「インスタントメッセンジャー」(注2)を作ったのはイスラエルのユダヤ人で、今からちょうど20年前の1996年のことである。また、創薬の開発には長い年月と多額の費用がかかるが、イスラエルでは盛んだ。イスラエルには、バイオに特化したVC、ヘルスケアに特化したVCがあり、そこにいる人達は、実際に製薬や創薬を経験した人達なので、目利き力があると言われている。

(注2) インスタントメッセンジャー
コンピュータネットワーク(主にインターネット)を通じてリアルタイムコミュニケーションを実現するアプリケーション


 風土の違いと言う点では、シリコンバレーでは、かつてはオープンであったかとは思うが、最近では、特定のサークルに入らないと親しくなれず情報も取れない、その特定のサークルに入るのが難しいと聞く。これに対して、イスラエルは、先に述べたように、オープンだ。多少英語が流暢でなくても、受け入れてくれる。
  加えて、極めて親日的であることが挙げられる。なぜか。それは、最近映画にもなったが、第二次大戦時に、リトアニアで約6000名の避難民(その多くがユダヤ人)を救ったといわれる外交官杉原千畝の存在だ。イスラエルの人は、日本に対して並々ならぬ尊敬の念を抱いている。これは、大きなアドバンテージだと思う。

 

 イスラエルのスタートアップ(ベンチャー企業)の最大拠点はテルアビブであるが、他には、テルアビブのやや北にあるヘルズリア(ヘルゼリアともいう)や更に北にあるファイファ、首都であるエルサレムが挙げられる。ヘルズリアには、マイクロソフトやアップルがあり、その周辺にはR&Dセンターがある。ファイファには、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)に比肩するイスラエル工科大学(テクニオン大学)がある。エルサレムは、日本でいうと永田町のような感じで、政府系のスタートアップが多いようだ。

 

 以上述べたように、イスラエルは、起業家にとって、起業しやすい環境にある。
 現在、イスラエル在住の日本人起業家は、Aniwo(エイニオ)代表取締役CEOの寺田彼日さんと、zerobillbank (ゼロビルバンク)共同創業者CEO堀口純一さんの2名だけであるが、特に、親日的な国民性であることを考えれば、日本の起業家の皆さんも一度イスラエルに足を運んでみては如何ですか。

 

 

※文中の(注)はVECによる。

次回は、「日本企業のイスラエル進出状況」について、述べます。