イスラエル通信 Vol.1 「イスラエル気質 -Enjoy your problems-」

 科学技術先進国であり、起業家国家でもあるイスラエルに今、欧米、アジアの大企業が、熱い視線を注いでいます。
 そこで、3回にわたり、2014年7月よりイスラエルのテルアビブに居を移し、ベンチャー投資をされている株式会社サムライインキュベート代表取締役CEO榊原健太郎氏に、①イスラエル気質、②イスラエルでの起業、③日本企業の進出状況等について、報告いただくことになりました。
 なお、あわせてVECベンチャーニュース(平成27年第2号)-イスラエルから学ぶ-もご参照ください。

 

 

 

 

イスラエル通信 Vol.1 「イスラエル気質 -Enjoy your problems-」

株式会社サムライインキュベート
代表取締役CEO  榊原 健太郎

 

Enjoy your problems

 イスラエルの街を歩くと、路上に「Enjoy your problems」という落書きをよく目にする。「問題を楽しもう」とは、どういう意味だろうか。確かにイスラエルは、文化的、宗教的、歴史的にみて、多くの問題を抱えている。問題だらけの国と言っていいかもしれない。私は、「楽しむ」とは、そういう問題について、「前向きに議論を重ねながら、どうすれば解決できるかを考えていこう」という意味だと理解している。あるいは、一見問題が無さそうな事柄でも、よく見るとそこに課題があり、発見した課題を解決しようと行動することも指していると思う。

 この落書きは、イスラエル人の気質を端的に表している。

 

 

本音で議論、スピード重視

 イスラエルの人は、とにかく議論をするのが好きだ。上司、部下のポジションは関係なく、本音でストレートな議論をする。建前は言わない。

 また、スピード感も半端でない。たとえば、「次回、打合せをしよう」と言うと、日本では、「それでは、来週のいついつ」となるが、イスラエルでは、「それでは、今日の午後はどうか」、「今から電話でどうか」という具合で、とにかく、「その日のうちにやりきろう」とする。投資の可否についても「今ここで結論を出せないか」と迫られるケースもある。自分自身、結論は速く出す方だとは思っているが、このスピード感には、当初は少々戸惑った。

 こうした行動の奥底には、「いつ何が起こるかわからない。いつ死ぬかもわからない」、「一日一生、一日を大切に」という意識、緊張感があるのではないかとも思う。ホロコースト等の迫害の歴史、近隣諸国との戦争体験が意識のベースにあるのでは、と感じている。

 

 ただし、誤解の無いように一言付け加えると、一般に「イスラエルは治安が悪い国」とのイメージがあるようだが、実際に治安が不安定なのは、「ガザ地区」等の一部地域のみである。私が暮らしているテルアビブは超高層ビルが立ち並ぶ一大商業都市であり、かつテルアビブ名物は、「“スタートアップ(ベンチャー企業)”と“海”と“音楽”と“クラブ”」と言われるリーゾト地でもあり、住みやすく、料理もヘルシーで美味しく、治安も問題ない。

 

 

家族が第一、男女平等

 議論好きで、スピード重視と記すと、なにやらハードワークの国と思われるかもしれないが、イスラエル人の一番のプライオリティは、仕事やテクノロジーを生み出すことではなく、家族(祖父母、両親、子供)である。

 とにかく、家族を大切にする。家族と過ごす時間をかけがえのないものととらえ、奥さんを幸せにして、家庭を守ることが一番と考えている。ホロコーストの記憶もあってか、自分たちの民族を永続的に広げていかねばならないという意識が強いように思う。
宗教的な背景から、金曜夜は必ず家族全員で過ごし、土曜日は絶対に仕事をしない(ユダヤ教では、金曜日日没から土曜日日没までが安息日)。ワークスタイルも、短い間に、同時並行で密度濃く色んなことを行うが、18時には終える。ダラダラ残業はしない。このため、イスラエル在住の日本人ビジネスパーソンが家族と過ごす時間は、日本にいた時とくらべて、圧倒的に増えることとなる。

 また、イスラエルでは、完全に男女平等で、家事、育児等も夫婦で、役割を分担して、ともに行っている。このため、女性の社会進出も活発である。

 

 

ユニークな発想、解決はテクノロジーで

 イスラエル人の発想はとにかくユニークだ。いま、ウエラブル機器がいろいろ開発されているが、たとえば、イスラエルの人は、こう考える。「所詮、視聴覚を認識するのは人間の脳だ。であれば、脳とコンピューターを直接繋げないか。あるいは、夢は脳が認識するものだ。そうであれば、夢で見た色をコンピューターで再現できないか」

 昨年11月末に、テルアビブで、村田製作所の子会社であるムラタ・エレクトロニクス・ヨーロッパ社(オランダ)と当社で、ハッカソン(注)を開催したが、ムラタの方も、イスラエル人のユニークな発想には驚くとともに感心したと仰っていた。

(注)ハッカソン
ハック(hack )とマラソン(marathon )を合わせた混成語で、ソフトウエア開発関係者が集まり、新規事業アイデアを競い合うイベント

 

 問題を解決しようとする場合、日本では、既存のルールや慣習を守ろうとするが、イスラエルでは、そもそも既存のルールは本当に必要かとまず考え、そのうえで、テクノロジーを活用して、問題を解決できないかと考える。

 たとえば、今流行りのAirbnb(エアビーアンドビー…宿泊施設/民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)やUber(ウーバー…自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ)も、よくよく考えれば、もともと田舎で行っていた「シェアリングエコノミー」ではないか? 現状、色々な規制があっても、テクノロジーで解決できるのであれば、是非進めるべきとイスラエルの人は考える。

 

 テクノロジーで解決しようと考える背景には、小学校からコンピューターのプログラミング教育を行っていることがあげられよう。また、イスラエルでは、男性は3年間、女性は2年間の兵役があるが、そこでも、科学技術の教育がなされている。先日、日本のテレビで、兵役を終えた人達が、サイバーセキュリティの専門会社を起業したと紹介されたそうであるが、イスラエルの通信環境は日本より整備されており、老人もIT端末を使いこなしている。

 

 イスラエルは、日本と同様、有用な資源に乏しい国だけに、「人材こそ資源」との考えが、イスラエル国民に深く浸透しており、大変教育熱心だ。

 国語はヘブライ語であるが、英語教育も盛んで、仕事は英語で行える。また、トリリンガルやそれ以上の4カ国、5カ国語を話せる人も多い。これは、ホロコーストを逃れて、ヨーロッパから移民してきた人や、ソ連崩壊でロシアから移ってきた人が多いためだと思われる。たとえば、祖父がドイツ語をしゃべり、祖母がロシア語を話すといった具合に、自然に言葉を覚えられる環境にあることに加え、ユダヤ人は数学が得意と言われており、言語をロジカルに覚える、パターン化して覚えることの才があるようだ。
2カ国語、3カ国語の言語を覚えると、4カ国語、5カ国語は簡単にできるようになるという。最近は、日本の大学を出てイスラエルへ戻ってきた人や、あるいは日本の会社などで働いた経験がある人もいるので、日本語が分る人も増えている。

 またイスラエル人は、暗号解読のスキルに秀でているといわれている。この点もサイバーセキュリティ等の面で、強みを発揮している要因かもしれない。

 

※文中の(注)はVECによる。

次回は、「イスラエルでの起業」について述べます。