コラム-英国の巻き返し-

英国の巻き返し

理事長 
市川隆治

 

英国貿易投資総省(UKTI)主催の”Innovation is Great”と題するイベントに参加する機会を得た。この”Great”は”Great Britain”の”Great”と掛けており、シリコンバレーの後塵を拝する英国が、ベンチャー振興において巻き返しを図るキャンペーンとして、英国の優れた投資環境や起業家に対する充実した支援を説明するイベントであった。

 

シリコンバレーに比較して歴史が浅いので、まだまだ米国には追い付いていないが、欧州やアジアのVC投資額はシリコンバレー以上に伸びているが、なかでも英国は、英語を母国語とし、ヨーロッパのゲートウェイとなり、文化的にも日米間よりも日英間の方が近いので、日本のベンチャーが国際展開を考えたときに有力な候補となるという。最後の点は米東部のマサチュセッツ州知事が来日した際、西海岸よりも東部の方が文化的に日本に近いですよと言っていたのを思い出させた。

 

さらに、英国では法人税の基本税率が20%と世界的にも低く、パテントボックス税制(特許から生じた利益に対する法人税を10%まで引き下げる制度)により法人税をさらに引き下げ、大幅な研究開発税額控除制度もあると説明された。また、初期の構想段階から商品化に至るまでのプロセスのあらゆる段階を支援する政府助成も提供されるという。

 

このように至れり尽くせりとも思える種々の支援策があるのであるが、日本と英国との間の大きな違いを挙げるとすれば、担当官が役人であるか、起業家や投資家経験者であるかではないだろうか。日本においてもビジネスプランコンテストの審査員やメンター、さらには審議会の委員には起業家や投資家経験者を就任させるようにしてはいるが、政策立案者やそれを実施する立場の担当官そのものにそうした経験者を中途採用する例はない。これは新卒一括採用で、特に官僚の場合には公務員試験を通らないと採用されないという、極めて労働流動性が限定的な日本の労働市場に由来するとも言える。最近でこそ官民交流が盛んになってきてはいるが、それも民の方は銀行や大企業からの出向者に限られている。尖がった発想の起業家や投資家の役割にまだまだ期待することができるのではないだろうか。国によっては大臣や大使が起業家や投資家の経験者であることもあるようである。

 

また、教育面では、ロンドンのRoyal College of ArtのInnovation Design Engineeringにおいて、自ら課題を設定し、それを解決するためのもの(例えば、折り畳み式車椅子とか電気を通すインク)の開発まで実現させているということであり、印象深かった。デザインと工学の融合教育である。そこの先生に伺ったところ、日本でこのような教育をやろうとすれば、まず教える教員の養成からやらなければならないとのことであった。

 

欧州の中でも先に紹介したフィンランドの”Slush”や、オーストリアの”Pioneers Festival”をはじめ、ベンチャーを振興させようといういくつかの動きがある。英国の巻き返しが功を奏するか否か、今後の展開が期待される。