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コラム -ベンチャーと規制緩和-

ベンチャーと規制緩和

 

理事長 
市川隆治

 

ベンチャーがこれまでの想定を超える機器やサービスを現実社会で広めようとするとき、従来の規制が立ちはだかることがある。

 

最近の報道に出てくるものとしては、ドローンの飛行に関する航空法や電波法の規制、民泊に関する旅館業法の規制がある。

 

今月、つくば市主催のロボット特区に関するフォーラムが開催された。テーマは、特区を活用した、SegwayWingletといった搭乗型移動支援ロボットの規制緩和である。市長も指摘するように、重要なことは、文部科学省や経済産業省のようなベンチャー推進官庁ではなく、道路交通法を所管する警察庁及び道路運送車両法を所管する国土交通省といった規制官庁の担当官が特区を活用した規制緩和について説明したという点である。

 

19世紀のイギリスに「赤旗法」という興味ある規制があった。当時はまだ蒸気自動車の時代であったが、規制当局としては馬車に代わるこの新たな乗り物をどのように扱ったものか相当悩んだようであり、1865年の法律で、安全のため、蒸気自動車の時速を郊外では6.4キロ、都市部では3.2キロ以下に規制するとともに、赤旗を携行した保安要員を車両の前に歩かせることとした。このような厳しい規制の結果、イギリス自動車産業はライバルのドイツやフランスに後れを取る結果となったと言われている。もちろんその後イギリスでも徐々に規制緩和を進めていくのであるが、時すでに遅しとなってしまった。

 

つくば市ではこの規制緩和を特区を活用することにより4年で一定の成果を上げることができたということである。平成23年に「構造改革特区」として「つくばモビリティロボット実験特区」の指定を得て、実証実験を繰り返し、規制官庁の理解を得ながら昨年には特区の規制緩和を全国展開できるようにした。

 

規制緩和は何段階かに分けて徐々に行われたが、最初の段階では幅員3メートル以上の歩道で、カラーコーンを置いて実験場所を特定し、保安要員は別途自転車にのって監視しなければならないというものであった。保安要員は自転車でわざとゆっくりついて走っていたと言う。何か「赤旗法」の保安要員を思い起こさせる図ではないか。

 

だんだんカラーコーンは必要なくなり、横断歩道も搭乗したまま渡れるようになり、保安要員はSegway等の搭乗者自身が担うことでよくなり、歩道の幅員制限もなくなった。

規制当局としてはあくまでも新しいモビリティロボットが安全に、一般の通行者や車社会に違和感なく受け入れられるかどうかを見守りながら徐々に規制を緩和していったということである。

 

シンガポールでは自家用車の取得に強い規制があることも手伝って、このようなモビリティロボットが先に通勤等に利用されるようになっており、遅ればせながら公道での走行規制をこれから定めていくということであり、日本での対応はいかにも日本的というか、規制を緩和することを特区を活用して実証実験しながら決めていくというアプローチである。しかし、規制当局も新たな乗り物の意義をよく理解し、特区の活用という有効な手段を使い、4年でその規制緩和を全国展開することができたのはこれから新たな機器やサービスを展開していこうとするベンチャーにとっては朗報といえるかも知れない。

 

もっとも、誰でも公道でSegway等を乗りこなせるかというとまだそこまではいっておらず、現状ではあくまで自治体が中心となって地方運輸局の許可を取った実証実験だけが認められており、また、つくば市での実験で怪我等の事故がなかったことが前提であり、さらなる規制緩和はこれからの全国展開の実験結果次第となろう。