コラム -ドイツの復権(続編)―

ドイツの復権(続編)


 理事長 市川隆治

 

Industrie 4.0やDuale systemの優れた点を含め、「ドイツの復権」については前編において紹介したところであるが、シリコンバレーとは一味違うイノベーション推進政策については、ドイツ連邦政府も必死になって模索しているようである。

 

2006年にマックスプランク研究所長、Dietmar Harhoff博士を委員長とする「研究及びイノベーションに関する専門家委員会」(EFI:Expertenkommission Forschung und Innovation)を発足させ、イノベーション推進政策に関する提言を毎年直接メルケル首相に対して提出させている。委員会のメンバーは全員Professorと博士号を有しているというハイレベルの委員会である。

 

今回委員会のメンバーが日本及び韓国を公式訪問した機会に東京で開催されたワークショップに参加することができた。私を含めた日本側からのスピーチは、日本におけるITベンチャーの最近のビジネスモデル、日本のベンチャー振興政策、日本のベンチャーキャピタルの現状等であり、スピーチ後の討論においては、日本の伝統的な教育・労働環境と、少しずつは変わりつつある日本の若者の起業家精神について特に関心が集中し、また、安倍総理のシリコンバレー訪問と「架け橋プロジェクト」の説明には熱心に聞き入っていた。経済産業省をはじめとした各省、各政府系機関のベンチャー振興政策をコンパクトにまとめた私どもの「VEC YEARBOOK」(「ベンチャー白書」の英文版)も日本理解の一助となるであろう。

 

さて、EFIが今年2月に公表した「レポート2015」を垣間見てみよう。

 

ドイツのベンチャーキャピタルについては、米国や他の欧州諸国に比べて劣後しているとし、ドイツ連邦政府のエコシステム改善政策を歓迎するとしている。特に繰越損失金税制の改定を歓迎するとする一方、ベンチャー企業のインセンティブを減らすような、税率引き上げ等には反対し、保険会社や年金基金の投資機会を規制する新措置は廃止されるべきであるとしている。また、ドイツベンチャー企業の成長ファンド(欧州投資基金経由)のドイツ連邦政府による創設は早急に実施するべきであると提言している。

 

過去20年以上にわたり続いているクラスター政策については、大企業と中小企業の協力プロジェクトに対する研究開発支援は大きな潜在力があると評価し、そのようなコラボは支援されるべきであると提言している。また、クラスター支援に当たっては、当該地域のパートナーだけに集中するのではなく、地域を越えたネットワークを作るべきであるとし、クラスターの国際化を提言している。さらに、クラスターの効果の客観的な中長期的評価を求め、システマティックなモニタリングの実施を提言している。

 

デジタルイノベーションに関して、現行の著作権法は非常に複雑だとして、その単純化、透明化を提言している。公式な通告に代えて、違反の警告を発するやり方が有効としている。公式通告による法的な賠償請求は、違反警告がインターネット経由で侵害者に発出されてからでいいのではないかとしている。

 

3Dプリンターについては、破壊的な潜在力を有すると評価し、素材科学やナノテクノロジーといった学際的な研究協力が大学や研究機関において強化されるべきで、ビジネスに対する技術移転もさらに支援されるべきであるとしている。Industrie 4.0の推進においても3Dプリンターの潜在力は大きく、優良事例の収集をするべきであり、また、システマティックな支援措置がなされるべきであるとしている。製造物責任のような未解決な法的問題は早急に解決されるべきであり、連邦政府は品質標準の開発に強力なインセンティブを提供するべきであるとしている。さらに、職業訓練においても3Dプリンターの使用技能は教えられてしかるべきであると提言している。

 

こうしてみると、これらの提言は日本にも共通しているものが少なからずあることが分かる。それは多分、日独両国がサプライサイドでものを見ているからではなかろうか。これに対してシリコンバレーは需要サイドで世界を変えることを推進しており、だから一般市民の受けもいいし、社会変革へのインパクトも大きいのではなかろうか。そんなことを考えさせられる機会であった。