シリコンバレー通信 Vol. 11「コンシューマープロダクト・スタートアップの勃興」〜3Dプリンターとクラウドファンディングが成長を加速させる

シリコンバレー通信Vol. 11   「コンシューマープロダクト・スタートアップの勃興」

                                                  〜3Dプリンターとクラウドファンディングが成長を加速させる

 

シリコンバレーといえばITスタートアップの聖地、というイメージが強いが、ここ最近IT以外の様々な分野のスタートアップが勃興している。その中でも特に元気なのが、デザイン志向のコンシューマープロダクト(消費者向けプロダクト)スタートアップである。3Dプリンターとクラウドファンディングという2つの新しい文明の利器がこの動きの原動力となっている。

 

サンフランシスコに拠点を置くBarracuda社は、この2つの文明の利器を活用して素早く表舞台に躍り出たコンシューマープロダクト・スタートアップのひとつである。Barracuda社は世界初の折りたたみ可能なキャリーオン・スーツケースを開発した。このスーツケースは、ラップトップを置けるトレー、USBチャージャー、位置追跡機能など旅行者にとって実用的でユニークな機能を一体化したデザインを備えている。

 

 

Barracuda社は Boban JoseとKiran Bhogadiの2人によってサンフランシスコで共同創業された。2人ともテクノロジー分野の学位とソフトウェアエンジニアとしての職務経験を持つ。2人は2〜3年前にチームとして組み、自分たちのスタートアップを立ち上げるべくアイデアを練りはじめた。当初は自らのバックグラウンドからの自然な流れとしてソフトウェア分野のアイデアを練っていたが、そのうちアイデアの枠を広げて、コンシューマー向けプロダクトのアイデアも考え始めた。そして何度もの試行錯誤の後にたどり着いたのがこの画期的なスーツケースのアイデアだった。Bobanはプロダクト開発の天才で、アイデアからデザインそしてプロダクトの全てを担当する。Kiranはオペレーションを担当している。

 

ソフトウェアエンジニアだった2人がスーツケースのスタートアップをやるって?たとえ二人が画期的なスーツケースのアイデアを持っていたとしても、伝統的な投資家は彼らの経歴を見て「そんなの無理だ」と一蹴していたことだろう。このような投資家は、創業者のバックグラウンドとして大手鞄メーカーで長年の職務経験があったり、その業界でいかに強い人脈ネットワークを持っているかなどをまずは気にするだろう。3Dプリンターとクラウドファンディングのプラットフォームはこのような非民主的な「オールド・ゲーム」を根本から覆し、BobanやKiranのような面白いアイデアを持っていて、それに賭けたいと思っている起業家にチャンスを与えてくれるのだ。

 

3Dプリンターによってプロダクトアイデアを即座にプロトタイピングして、潜在ユーザーからフィードバックを得て、素早くプロダクト改善のサイクルをまわすことができる。クラウドファンディングによって、アイデアを全世界に発信して、潜在ユーザーにアイデアを即座にバリデートしてもらうことができる。コンシューマー向けプロダクトにはつきものだが、アイデアには必ず当たり外れがある。潜在ユーザーに聞いてみないと、三振かヒットかホームランかは分からない。だからこそ素早くアイデアを形にしてユーザーに聞くプラットフォームが必要となる。それがクラウドファンディングである。この2つの新たなツールによって、コンシューマープロダクトスタートアップの立ち上げコストは飛躍的に低減したと言える。

 

現在クラウドファンディングのプラットフォームは幾つか存在するが、これらを使いこなすにはある程度の経験とコツが必要となる。BobanとKiranが初めてクラウドファンディングのプラットフォームでキャンペーンを行った時、新しいことだらけでどのように使ったら良いのかよく分かっていなかった、という。その時のキャンペーンは目標額を集められず不発に終わった。その後、 第1回目のキャンペーンの時に学んだコツを活かしながらも、全く新しいプロダクトアイデアで2回目のキャンペーンを開始したところ、期待以上のヒットとなった。たった45日で3,300人以上のサポーターを獲得し、合計$1.2Millionを調達することができたのだ。この資金調達により、Barracudaチームはプロダクト製造ステージに入り、また外部投資家から追加の資金調達をすべく奔走している。

 

クラウドファンディングは彼らのような非伝統的な起業家にとっては画期的なツールである反面、リスクもあり、使い方には注意が必要である。クラウドファンディングでキャンペーンをする際に起業家はまだ製品化されていないアイデアを公にするので、アイデアを保護するために事前に特許を押さえておくことは非常に重要である。BobanとKiranもキャンペーンを始める前に鍵となるアイデアについては特許を抜かりなく固めておいた。これは最低限の投資的コストである。

 

3Dプリンターとクラウドファンディングの組み合わせは、コンシューマープロダクト・スタートアップのランドスケープを永遠に変えてしまった。独創的なアイデアを持つ人が、アイデアを素早く具現化し、潜在ユーザーとつながり、潜在ユーザーの後押しを受けて、製品化に進める、という民主的なプロセスが構築されたのだ。

 

「3Dプリンターとクラウドファンディングという強力なツールが世に登場したからこそ、こんなに短期間で自分たちのアイデアを具現化することができた。クラウドファンディングのキャンペーンは世に出るきっかけとなったが、これからはスタートアップとして、この会社をどんどんスケールアップして大きなブランドを作りあげていきたい」、そのようにBobanとKiranは熱く語っていた。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポート

 

(吉川 絵美)