シリコンバレー通信 Vol. 7「米国における外国人起業家ビザをめぐる動き」

シリコンバレー通信Vol. 7   米国における外国人起業家ビザをめぐる動き

 

とある夕方、シリコンバレーの一角にあるサニーベールのコワーキングスペースにて、50人程の外国人起業家が集まった。移民弁護士を招待して、外国人起業家向けのビザの現状、展望についてディスカッションを行うためである。テクノロジーの聖地シリコンバレーという土地柄インド人や中国人が半数を占めるものの、ヨーロッパ系やラテンアメリカ系なども多く、非常に多様な人間の集まりであった。

外国人が起業する際のビザの種類について説明する移民弁護士

 

彼らの目的はただ一つ。いかに早くスムーズにビザを獲得して自分のスタートアップに邁進できるか。

 

米国ではここ数年の間、外国人起業家向けのビザ制度改革の必要性が声高に叫ばれている。米国の経済の起爆剤はスタートアップであり、スタートアップがより起業しやすく資金を集めやすい環境を作るべきだという論調のもと、クラウドファンディングをはじめ様々な法案が討議されてきた。その流れの一環として、優秀な外国人が米国で起業しやすい移民制度を作ろう、という論調もここ数年の間、盛り上がってきている。GoogleやeBayなどの成功企業も外国人起業家によって創業されたこと、米国在住の外国人は米国国籍者よりも2倍の確率で起業しているということ、INC社が発表する最も成長が速い企業ベスト500のうち20%以上が、外国で生まれた経営者によって経営されていることなど、いかに外国人が米国の経済に貢献しているかについてのファクトは枚挙にいとまがない。

 

多くの外国人は留学を通して米国に入国するが、その後、企業への就職を経て、自分で起業する場合、多くの人がビザの問題に直面する。永住権(グリーンカード)をとってしまえば、もちろん自由に起業ができるが、多くの国の出身者にとってはグリーンカード取得までの道のりは長い。H-1Bビザ(専門職向けビザ)からのトランスファー、E-2ビザ(投資家用ビザ)取得、O-1ビザ(卓越した能力を有する人物向けのビザ)取得など、いくつか方法はあるものの、多くの起業家にとっては対象外かまたは一筋縄にはいかないプロセスとなっている。

 

このような状況への一つの解決策として、米国の移民法が適用されない海上にスタートアップアクセラレーターを作ってしまおうという奇抜なアイデアも出てきた。サニーベール本拠のベンチャー、Blueseed社はこのような構想を打ち立て資金調達を行っているところだ。サンフランシスコ・ベイエリアの太平洋側にあるハーフムーンベイからボートで行ける場所に海上に浮く大型船を設置し、そこで外国人起業家が起業活動を行い、時としてボートに乗って陸地に赴き、ネットワーキング目的で(あくまで就労目的ではなく)米国の土地を踏めるという構想である。資金調達はなかなか苦労しているようではあるが、このようなアイデアが出てきたことは、米国において外国人起業家が直面するビザ問題がいかに深刻化しているかを象徴する事例といえる。

Blueseed社の海上アクセラレーター構想(出典:Blueseed社)

 

2011年には、外国人起業家向けのビザ制度を改革するための”Startup Visa Act of 2011”法案が議会に提出された。その後、紆余曲折を経て2015年の1月に、第4回目の改正案が提出されたものの、その行き先はまだ暗雲が漂っている。2014年11月にはオバマ大統領も、外国人起業家ビザ(Startup Visa)の重要性を表明して、今後大きな動きが出るのではないかと期待されたが、「実際のところパフォーマンスとしての声明なのではないか」、「大統領が変わったらまた一からやり直しだろう」、などと冷めた声も聞こえる。

 

クラウド環境やオフショア開発など、起業コストが圧倒的に下がり、世界のどこでも起業活動ができるようになってきた今だからこそ、優秀な起業家人材を米国に引きつけなければ長期的に大変なことになると危機感は高まっている。日本でもはじめから世界を狙うスタートアップを育てていくためには、優秀な外国人起業家の取り込み、支援はますます重要になってくるだろう。

真剣に聞き入る外国人起業家たち

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

 

(吉川 絵美)