シリコンバレー通信 Vol. 1 「起業を取り巻く世界の民主化」

 

シリコンバレー通信 Vol. 1 “The Democratization of Entrepreneurship”

 

“The Democratization of Entrepreneurship…” (起業を取り巻く世界の民主化)

 

今年5月初旬にシリコンバレーで 開催されたHarvard Alumni Angels Global Conferenceで幾度となく耳にした言葉である。

 

このカンファレンスはハーバード卒業生が組織するエンジェル投資家グループ(Harvard Angels)が毎年主催しているイベントで、フルタイムまたはパートタイムのエンジェル投資家、アクセラレーター等の起業家支援組織、資金調達を試みる起業家などが世界中から集まる。

 

米国においてエンジェル投資は引き続き拡大している。ニューハンプシャー大学のCenter for Venture Research (CVR)の2013年報告書によると、2013年の米国内のエンジェル投資額は$24.8Bn(約2兆4千億円)で、去年から8.3%増加した。2003年のエンジェル投資額は$18Bnだったので、この10年間では約33%上昇したことになる。エンジェル投資家数も2003年の22万人から2013年には29.8万人まで増えている。

 

このような背景のもと、エンジェル投資家がそれぞれの地域や投資対象とする業界などによって個別のグループ(エンジェル投資家グループ)を作り、お互いの投資プロセスを支援し合う動きが加速している。前出のHarvard Angelsもそのひとつである。

 

このようなエンジェル投資家グループは全米中に存在し、その数も増加の一途を辿っている。2004年には米国内に約200グループが存在していたが、現在は500グループまで増えているとされ、この10年間で約2倍以上に増えたことになる。Harvard Angelsのように特定大学の卒業生が集まって作ったグループもあれば、ヘルスケアやクリーンテックという投資テーマごとのグループ、女性起業家を支援するためのグループなど、多様性が出てきている。

 

グループの活動内容はそれぞれ異なるが、一般的に、グループに所属するエンジェル投資家が有望なスタートアップを発掘し事前調査を行い、グループに提案、他のメンバーの判断も踏まえて、選ばれた起業家を自分たちのプライベートなピッチイベントに招待、その後、興味のある投資家が集まって協力して投資のデューデリジェンスを行い、投資判断を行っている。これによって、効率的に投資案件のソーシングを行い、専門分野や投資哲学を共有する仲間と協力して意見を交換しながら、効率的に投資を行えるというメリットがある。

 

さて、話をカンファレンスに戻すが、今回のカンファレンスでは、起業環境を取り巻くエコシステムの民主化の動きに関するディスカッションが活発に行われた。Y Combinatorなどの数々のアクセラレーターの登場、アーリーステージの起業家と投資家を直接結びつけるプラットフォームであるAngelList、アーリーステージのスタートアップへの投資元の多様化(エンジェル、スーパーエンジェル、マイクロVCなど)、クラウドファンディングなどの近年の一連の動きは、正に起業環境の民主化を象徴するものであり、これにより起業家がいかに”empower”されているかがカンファレンスでは熱く語られた。このような動きが起こる前は、シリコンバレーでは一流のVCが絶対的な権力を持ち、突きつけられたタームシートを起業家がしぶしぶ受け入れなければならないという、非対称のパワーバランスが蔓延していたが、それが今変わってきている。これはシリコンバレーにとっても重要な変革の時期であると、某アクセラレーターの代表は熱を込めて語っていた。この論調は、とりわけ民主化大好きなアメリカ人の心の琴線に響いたようであった。

 

起業環境の民主化はステークホルダーにとって新たな競争原理をもたらす。エンジェル投資家の間では有望な投資案件を勝ち取る競争も激しくなっており、有望な起業家を惹き付けるためにも、エンジェル投資家グループとしていかに戦略的にブランディングしていくべきかが議論された。また、アクセラレーターも数多く登場していることから、「アクセラレーターバブル」とも揶揄されるような状況にあり、いかにアクセラレーターとして差別化していくかも議題のひとつとなっていた。

 

また、起業家のステータスが上がってきたとはいえ、必ずしもシリコンバレーでの資金調達が簡単になったということではない。「起業のしやすさ」「初期投資の低下」によって参入障壁が下がり、競争が激しくなっており、また各ラウンドでのプロダクトの完成度に対する投資家の期待値も上がっている状況がある。

 

いずれにせよ近年の動きはシリコンバレーの起業エコシステムの円滑な動きを確実に後押ししており、まさにシリコンバレーは「起業社会の民主化プロセス」の真っ只中にいると言える。今回のカンファレンスはその勢いを改めて感じるきっかけとなった。

 

 

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本コラムシリーズでは、シリコンバレーを本拠に、エネルギー環境分野の事業戦略ハンズオン支援や新規事業の立ち上げを行っている筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

 

(吉川 絵美)