第172回「3Dプリンターの底力㊦-荒廃都市再生の切り札3Dプリンター」

 見棄てられた都市再開の立役者として3Dプリンターに光が当たろうとしている。かつて車の王国として光輝いていたデトロイトも今や破産自治体として有名になった。かつての王者フォードが去り、今やGM(ゼネラル・モーターズ)が同市を支えているイメージとなった。

 

 デトロイトの特徴は、流れ作業による小品種大量生産の実現で、フォードのT型車などわずか41秒で1台が市場に送り出された。しかし、その面影はいまやゴースト・タウンにとって替わられている。淋しく治安の悪い荒涼たる空きビルの林立は不気味だ。ところがこの荒涼の世界をひと味違った形で再生させようという動きがいくつか出始めている。

 

 ここで興味深いのは、そのいずれのプロジェクトにも中心に3Dプリンターが置かれている点だ。3Dプリンターで作り上げられた製品は強度的に欠陥が多く、これを克服しようという動きがある。あるいは、3Dプリンターの大型化。飛行機のロータリー・エンジンを3Dプリンターで試作しようという意欲的な動きもある。極端なケースでは、自動車エンジンのすべてを同プリンターで製作、試験するというものもある。何せ、3Dプリンターとなると少種一品生産も可能で、それまでのデトロイトとまったく逆の方向、言い換えれば逆産業を生み出せる力を秘めている。あるミシガン州のベンチャー・キャピタルは、荒れ果てたビルを上記のような革新的なベンチャー企業に貸し、デトロイトを3Dスキャナーによる生産基地とすることを目論んでいる。

 

 現世界の3Dプリンター業界は、アメリカの3Dシステムズ、ストラタシス、アスペクト、シーメットの4社に占められているが、この4社とも3Dプリンターを産業の中枢にすべく全力投球している。何せ開発コストは、20分の1以下、開発期間も10分の1と魅力的だが、問題は材料の強度にある。

 

 3Dプリンターについてはこんな話もある。大企業をスピンオフした技術者仲間数人で何とEV(電気自動車)を作り出した。車の名は「グリーンカー」。6時間の充電で30km公道を走ることができ、しかも価格は同種のメーカー市販車の5分の1(65万円?)。この話、アメリカと思ったが実は日本である。3Dはここまでできるという実例を示した。製品の壁は粉末焼結金属やナイロン粉末材が用いられているが、問題は材料の強度である。0.1ミリピッチで積み上げられているのに過ぎない3Dプリンター製品は強度に難がある。これまでは樹脂と砂を混ぜた砂型で鋳型を3Dプリンターで作り、この鋳型をベースに自動車向鋳物などを作ったケースが多かったが、これでも1ヶ月の仕事がわずか3日に短縮されたというから凄い。

 

 デトロイトでは、このような意欲的なベンチャーの集積を作ろうとしている。この中には大型化については、CO2レーザーを使って1辺が1メートルもの大きさの装置を作り出すことに成功しているベンチャーもあり、また今後省エネで期待されるターボ・チャージャーを光造形自作、自社の自動車に取り付けた企業もあるという。3Dプリンターは今後ハードな産業ばかりでなく、人工骨のような生体へのソフトの応用が注目されている中で、デトロイトの動きには目が離せない。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)