第168回「(補)強毒なCDSの怖さはデフォルトの他地域への伝播」

 強毒性のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が持つ、地域を超えた毒散布の物凄さは決して忘れてはならない。農業の新たなステージへのステップアップには資金が必要であり、その新たな調達手段として本稿ではCDSとABL(アセット・ベースト・レンディング:動産担保)の利用を取り上げてきた。これまで農業分野での資金供給源と言えばJA(いわゆるかつての農協)しかなかっただけに新しい資金源獲得手段開発への期待は大きい。

 

 しかし、その中には咬まれると毒蛇にも似た猛毒を注入する恐ろしい類が心材していることは決して忘れてはならず、特にCDSは悪名高きリーマンショックを誘発した元凶のひとつとして恐れられた。CDSが持つもっとも怖い点は、それが一瞬にしてデフォルトの嵐、あるいは深刻な最急降下を世界中に広める点である。

 

 ピンピンしていた米国の会社が欧州でのデフォルト事件によって息の根を止められるといったことが現実に起こり得る。現在EUでは、ギリシャの国債不安に発し、スペイン、イタリアまで含んだ金融不安が吹き荒れている。これらの国が発行する国債を買った人々は、値下がりに直面しているばかりでなく、場合によっては債務カットによって国債がタダの紙屑になる危険性におびえている。

 

 このような事態が発生したら国債を保有する金融機関、個人は大損害を被るはず。ここで、“はず”と書いたところにミソがある。つまりちゃんとヘッジをかけておけば国債の価格が紙切れになろうと平気なのだ。自分で指定した金額、権利行使価格で買い売りできるからである。

 

 例えば、ある国の国債が100円から30円へと急落している市場でAさんは60円で買った債権1枚を持っている。現実には70円の含み損(売ればその損失は確定)を抱えているが、この損失を起死回生的に取り戻せるのかプット・オプションによるヘッジである。Aさんはプレミアムを支払い、60円で売るプット・オプションを買っていた。つまり、いくら60円以下に国債価格が下がろうと、Aさんは自分の国債を60円で売却できる。実行すれば損得ゼロだが、このAさんに相対するのがこのプット・オプションの売り手側のBである。Bは死にもの狂いでAの損失を保証しなければならない。この場合、実際の損害はBに転嫁がされている。これは新聞報道されてない点だが、欧州の財政危機の真の深刻さはまさにこの点にある。前件でいえば、Aは欧州の国債を買った金融機関などであり、Bはまだはっきりその正体を見せていないものの米国の巨大銀行と推測されている。B側としては、相手の身元がはっきりしていて一応安全と考えられる国当局なのだから、安心してプット売りに応ずることができた。

 

 ところがである、欧州の国債は下がるどころか、財政の立て直しに一部切り捨てなどといった、とんでもない話が出てきたから米国B側は大慌て。米国の財務次官補が欧州に飛んだのもこのような理由による。欧州がこけると、ADSを通じてデフォルトの嵐は大西洋を越え、米国を席巻する恐れが出ているのである。CDSの扱いには、従来の資金の流れとは異なる落とし穴がある点は十分認識しておく必要がある。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)