第166回「無から有を生み出すBizモデル㊵-『安全』が商品になる市場の創出」

 これからはハイテク農業の時代。アベノミクスの中核へと期待されているが、農業はこれまでの諸産業と異なって、農地法に起因する金融上の担保不足という問題があり、資金の導入が難しく大規模化、ハイテク化、高次産業化への大きなボトルネックとなっている。

 

 そこで不動産に依存しない資金集めとしてCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を利用したデリバティブがらみの方式が注目されているが、さらには動産を担保とする「ABL」(アセット・ベースト・レンダリング:動産・債権担保融資)の本格化が農業とのマッチングの良さとトレーサビリティで注目を浴びている。

 

 農業の事業活動によって生み出された牛、豚、野菜、米、花、海産物など農産物としての動産、あるいはそれらの販売、売掛金を担保として融資をしようというのがABLである。これのベースには、対象物のすり替わりによる価値の変動などがあってはならないわけであり、それを明らかにするトレーサビリティ(生産履歴管理)は不可欠となる。また各種農産物の客観的な評価方法の確立が必要で、ここでも農業とITとの接点が自然と浮かび上がってくる。

 

 ABLの実例を見ると、地方の金融機関が中核に実施されている例が多い。古いところでは2007年、豊橋市のL社のケースがある。

 

 同社は胡蝶蘭の生産から販売を行う株式会社形式で事業を展開しており、販売ルートは、従来の花き市場への持ち込みのほか、生花店からの直接注文、さらにはインターネット経由での消費者への小売りルートも開発している。さらなる発展を目指して同社はABLの活用と考えた。農業向け融資にも熱心な地元の豊橋信用金庫と手を組む機会を得たのである。その結果、作業所内の2万鉢の胡蝶蘭・プラス5社への売掛金の合計を担保として、1500万円の融資を受けた。

 

 これはある意味で農業者にとって画期的なことであった。それまで農業者の借入源はJAに絞られていたからである。事実同社も以前に、JAから後継者育成資金として7000万円の融資を受けていた。このL社の他にも、ABL融資による成果は各地で出ている。例えば品質の悪い中国市場でのセレブの動向を狙ってホウレンソウから果物の直接輸出で成功している例が多い。

 

 例えば果物などは安全・新鮮さが現地の数倍の付加価値を稼ぎ出している。つまり果物そのものでなく、安全がカネになっているのである。余談だが、この動きは我が国の水資源にも及ぼうとしている。極めて水質が悪化している中国は、日本の山奥の無価値な山林ではなく、そこから浸出する水源に多額のカネを投入しようとしている。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)