第164回「無から有を生み出すBizモデル㊳-悪の権化CDS?農業者への融資最大60%がCDS化㊦」

 前回のCDSプット・オプションが債務などをヘッジするとなると、保険とどう違うのかという疑問が生ずる。保険は分散投資の一種で、個別のリスクにしか対応しておらず、損失は加入者が分担する仕組みだ。これに対してCDSは、債権などのリスクだけを切り離して商品化されており、従って前回のようにシステマティック・リスクにも対応できるのが特徴である。また売り手の損失は無限大というのも恐ろしい所だ。

 

 現代にあっては、出資はするがリスクはかけたくないという人たちと、出資金はないけどリスクは負担したいという2種に分業が成立しており、デリバティブはそのリスクを対象にしたビジネスということができる。

 

 ただしCDSは純粋なプットなどのヘッジではなく、それをオフバランスにも利用しようという邪悪な動きが出たことに問題があった。例えば2008年10月末に顕在化した通信企業S社の最大750億円にのぼる社債の受け継ぎが発生、これをオフバランス化するため社債で同額のシンセティックCDOを購入、これからの収益を社債の元利払いに充てることを考えたのだ。ところが組み込まれたCDSの中の数社でデフォルトが発生、プレミアムが入らなくなり、シンセティックCDOの支払いがストップしてしまったのだ。

 

 ここで注意したいのはシンセティックCDOの組み方である。先回これに組み入れるCDSとして、エクイティ、メザニンシニアがあると述べたが、エクイティは負債の支払い能力の低い層のもので一般に組成者が保有しており、残りはCDOが合成される。この際いわば原資となったCDSの中で、例えば1、2のメザニンの利払いがデフォルトしても顧客には契約通りの元利払いが実施できるよう設計されている。実はこれが本来の健全なるシンセティックCDSの姿なのである。リーマン・ショックはCDSが悪いのではなく、信用の低いCDSまで組み込むという、組み方に問題があった。

 

 ところで、わが国で農業を産業とみた場合、最大の問題点は資金の調達である。農業は一般と異なって、農地が事業用の担保にできないという農地法上の重大な制約がある。この隘路を克服する手段として、広く一般から資金を集める方策が考えられた。それがCDSをベースとしたシンセティックCDOに似た仕組みである。金融機関は農業者に融資する一方、それをベースとしたCDSを取得する。このCDSは、金融機関が設立した特別目的会社(SPC)へと転売される。

 

 SPCはこれらCDSをまとめたプールをベースとして証券、この場合は社債を発行、これを一般投資家に販売するという形をとる。かつてのシンセティックCDOの社債版である。日本政策金融公庫農林水産事業本部がかつて公表したケースでは、農業者への融資の最大60%がCDS化されたという。証券を発行するのはCDSをプールしたSPCだが、このような仕組みは今後地方の金融機関に大きく期待されているという。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)