第154回「無から有を生み出すBizモデル㉙‐アップル、空前の見事な“故意借入”社債による株主対策」

 4月は米ウォール街が久方ぶりに空前の興奮に包まれていたという。というのも株主保護をそこまでやるのかという史上初規模の施策が発表されたばかりでなく、5年前のリーマン・ショック以来苦境をかこっていたヘッジファンドが息をついたといわれているからだ。

 

 徹底した株主対策と称賛されたのは、スマートフォンやタブレットで全く新しい市場を創出した、御存知アップル社。500億ドル近い現金・等価物を持っている同社は、2011年第2・四半期には最高の株価をつけたにもかかわらず、その後は下落傾向。本年第1・四半期には大幅な成長率の減少と株価の下落を示した。

 心配したのはアップルの株主である。アップル株は多くのヘッジファンドも所有しており、ここにきてアップルへの期待が大きく揺らいだ。この株主の“反乱”を未然に福の神にかえようとしたのがアップルであった。

 所有する現金・等価物を配当として吐き出すのはわけもないことだが、世界各地に分散保管されている現金などをドルに戻すには為替やカントリー・リスクもあり、簡単な話ではない。そこで打ち出したのが、その3分の1近い170億ドルもの社債の発行である。つまり同社としては初めて社債という負債をあえて実施して、そのカネで市中のアップル株を買い戻すという手段に出たのだ。買い戻された株は金庫株としてアップルから社外に出ることはないので市中を流通する株数は減少し、それだけ株価は自然と上昇する。

 アップル側としても社債への金利は税務控除になることは計算済みだが、ここで株主に対しては金利が下がるとそれだけ株価の利回りが上昇し、それに伴い株価も高くなるという金融工学上のてこ入れ効果(ギアリングともいう)がフルに活用されている点も見逃せない。ただし、これには金利下降の長期見直しが必要だが。

 

 リーマン・ショックから5年間鳴かず飛ばずだったヘッジファンドは、市場を牽引する強力な株が見当たらず、割高な株を空売りして、株安とされていたアップルを買う伝統的なロングショート作戦に出たグループが多かったといわれている。

 これが将来アップルは腕時計型端末を出すなどとのうわさを担いで、何とかアップルに肩入れをしていたというのが実態であった。だが、ここに来てのアップルの徹底した株主対策の発表で、一息ついたばかりでなく大儲けに転じたものも多いという。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)