第150回「無から有を生み出すBizモデル㉕‐ITベンチャーの本質は情報の非対称化の創出」

 ある世論調査をみよう。目的の政党が好きか、きらいかを調査したいのだが、依頼を受けるのは巨大なネットワーク・サービスを張っているインフォメーション・テクノロジー会社(IT)である。

 

 ネットに参加しているユーザーに対してランダムな選出を行い、上記の質問を発行すると、たちどころに返事が返ってくる。これに集計・統計処理を施すと世論調査は終わりだ。しかしこの調査は、日本なら日本という巨大な母集団を代表しているとみることができるのだろうか。否である。調査対象は、まずパソコンか少なくともスマホを持っていなければならず、しかもインターネットを介したITのネット・サービスに参加していなくてはならない。とすると、このような人物像は、若者か働き盛りの人々ということになり、高齢化社会の主役である高齢者群がごっそり抜け落ちる危険性をもっている。ある情報が特定の集団のみに依存するような状況は「情報の非対称化 」と言われる。上記の調査では非対称から生じたいびつな結果しか得られない。かつての世論調査は、無作為に抽出した電話番号に電話をかけ、そこから回答を得たものだが、これでも電話器を持つ、持たないという情報の非対称化が発生している。

 

 ここで見方を転じてITベンチャー企業を眺めてみると、その本質は情報の非対称化を創出することである。それまでフラットであった情報の世界に落差を発生させ、その落差によって得られるポテンシャル・エネルギーがITベンチャー成長の源泉となっている。例えば昨年の米大統領選挙で、オバマ陣営がフル活用したのは、この発生したポテンシャル・エネルギーの最大限の利用であった。自ら2,3の階層向けにそれぞれ異なるホームページの立ち上げ、あるいは利用するネットワーク・サービスの選択を行ったばかりでなく、根本ではそれらを統合、新たな支持者リストを作成した。そのために、グーグルなどから新鋭のソフト・エンジニアを引き抜き、統合のための新しいアプリケーション・ソフトを開発したと言われている。このソフトが非対称の輪を造り出した。いくつかの輪が重なり合う部分こそ、絶対確実な支持者層であり、この重合部分を拡大することが選挙活動の基本となる。

 

 これからは選挙といえども、その裏はアプリケーション・ソフト開発の戦いとなってくる可能性を示唆しており、これが拡がると冒頭のような非対称の閉塞は至る所で潜在化することも起こりうるし、これまでの標準曲線をベースとした単純な統計手法の書き直しを求められる事態も十分考えられる。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)