第146回「無から有を生み出すBizモデル㉑‐平成のモラトリアム始末記(下)-「旧債振替」がかもすモラル・ハザード」

 国が補助金や支援金を支出する、特に債務を保証するという行為はこれまでみたモラトリアムと違って著しいモラル・ハザードを引き起こす根源となる。

 

 ここでいう債務保証とは、企業が金融機関から資金の融資を受ける(通常無担保)に際して、その借入金額のすべてまたは80%を公的な信用保証協会などが返済を保証、もし返済が実行できない場合は、保証した金額を保証機関が企業にかわって支払うというもので、「代位弁済」といわれる。債務保証は実は金融機関が企業に貸し出した金額を信用保証協会などによる債務保証された金額にすり替え融資への確実な返済の道とするとんでもないモラル・ハザードが発生する引き金となる。

 

 例えば、A銀行からB社に対し金額として2千万円の融資が行われていた(旧債)場合、A行はB社に対し再度量産化などを名目に債務保証つきの同額の融資を受けさせるよう営業する。これが実現するとB社は新たに得た融資を先の2千万円の返済(振替)に充てる。これによってA行に残るB社への融資は、返済が確実となった債務保証付きの融資のみとなる。

 

 債務保証は、研究開発、試作、新分野進出、業務拡大などを理由として企業が金融機関から融資を受けるに際し、当該金融機関から保証協会に当該債務を保証するよう申請をしてもらい、それを協会側が承認すると当該債務は事実上保証協会側に転化される。ここにもう一つのモラル・ハザードが存在する。それは保証をつける金額に対する審査と与信管理が極めて甘くなる点である。金融機関側には保証金額だけ実害は確実に減らせるため、かえって厳密な審査は邪魔になる。ひどい場合は、審査に際し、わずか数分で決裁印が押されOKとなったという超甘ケースすらある。特に次の5つの「ない」をクリアすれば決裁印を押すというのは悪名高きネガティブ・リスト方式の最大の問題点であった。ここでいう「5つのない」とは、破産や会社更生中でない、手形の不渡りがない、税金の滞納がない、本社や商号の変更がない、高利貸などからの借入がない。これらはいずれも自己申告であり、裏付けの調査はほとんど行わないから申告書類をうのみにする他はない。この超甘を突けとばかり、金融機関は自社の融資金の債務保証金へのすり替えに走る営業に精を出す所があるかと思うと、企業側は一種の恩義でその要望に応える。

 

 企業側の銀行口座に債務保証がついた金額が振り込まれると、企業側は開発、試作資金と称してそれを何回かに分けて引き出し、企業が受けている融資の返済に回すのである。この操作は業界用語で旧債振替といわれており、信用保証制度では禁止されているのだが、なかなか実態は追究しにくい。

 

 当VEC(ベンチャーエンタープライズセンター)も実は日本最大の債務保証機関たることを目指して1975年、ホンダの創立者の本田宗一郎さんの肝いりでスタートした。ホンダも元は一介の町工場ベンチャー。すぐれたベンチャーを相次いで育て、日本の未来を背負ってもらうというのがVECの崇高な目的だったが、設立の裏では旧債振替のモラル・ハザードの存在を危惧する声があったのも事実だ。

 

 これまでの債務保証などでは、金融機関の自衛の誘発というモラル・ハザードを引き起こす危険性があるのに対して、モラトリアムは返済の延期が主旨で、債務保証との明確な相違を把握いただけたと思う。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)