第144回「無から有を生み出すBizモデル⑲‐平成のモラトリアム始末記(上)-『1:3:1』 6万社のリスケ再生が実現」

 この3月でいよいよ中小企業金融円滑法、いわゆる“平成のモラトリアム”が期限切れとなる。民主党政権時代の2009年、亀井静香金融相(当時)のたっての願いで2年間の期限立法として施行され、2011年には期限が延長され今回に至った。

 

 モラトリアムは支払猶予令とも呼ばれ、わが国では不況回避のため債務の支払い延期が過去に2回緊急勅令として公布されている。関東大震災後の1ヶ月の支払い猶予を認めた1923年と、世界的金融恐慌の嵐がら当時の台湾銀行を救済するための1927年の2回である。

 

 ここで注意したいのは、モラトリアムと徳政令は抜本的に逆という点である。モラトリアムは手形も含めた支払い延期が中心となっているのに対して、徳政令は債務つまり借金の破棄、借金のカタに取られた不動産の取り戻し、質流し品の取り戻しという強硬なもので、所有権の否定を伴っている。今回のモラトリアムは、苦境に至っている中小企業が経営改善計画書、いわゆるリスケジューリング(リスケ)を金融機関に提出、それによって毎月の返済額の減免や返済期限の延長を求めるというもので、中小企業はその間に体力を強化、黒字体質へと再生させようというものである。法の主旨はできる限り中小企業側からの条件変更に応じよというものだったが、これは一方ではモラルハザードを引き起こし、倒産寸前のゾンビ企業を延命させるだけの効果しかないとの厳しい批判もあった。

 

 このモラトリアムの成果はどうか。2012年9月現在で370万件の返済猶予の申込みがあり、金融機関はその90%に応じたといい、金額ベースで累積で100兆円に達したという。猶予を利用できた企業は合計で30万から40万社に達するものとみられている。これは中小企業10社に1社がリスケを提出したことになるが、リスケ通りに再生が行われたかは別の話。一般的な話としてよく話題になるのは「1:3:1」の結論。本法の利用社数を30万社とすれば、その5分の1の6万社がリスケによる再生をうまく享受できた一方、5分の3の18万社はいまだリスケにそった改善途上にあり、残り5分1の6万社は猶予の効果もない倒産予備軍という。これを並べると「1:3:1」となる。倒産予備軍に対して、期限はどのような支援を行うかというポスト・モラトリアムがこの春以降の重要なテーマとなる。

 

 昨年12月には貸はがし、貸しぶりはしないようにとの大臣説話が発表されているが、かつての阪神淡路大震災の時にみられた3年不況の問題もあり、目が離せないというのが本音。この3年不況というのは、震災直後の手厚い支援が2年で切れたため、3年後から倒産が急増した先例を指しており、特に恐れられたのが連鎖倒産だ。リスケ提出企業はほとんどが債務者区分では新たに融資が受けられない要管理先以下に指定されている。しかしモラトリアム下でリスケを提出した企業はこの区分から切り離されてきた。金融庁では、この区分けはポスト・モラトリアムでも堅示するよう指導はしているのだが。

 

 なお本稿第111回でポスト金融円滑法を取り上げているのは、中小企業者に対し、いわばすべり込みを喚起する狙いであったと申し添えておく。

(多摩大学名誉教授 那野比古)