第134回「無から有を生み出すBizモデル⑪-今年最大のテーマは新人種「グロース・ハッカー」」

 本稿ではかつて世界初のクラウド・ネット大統領オバマを紹介したが、オバマの対抗馬であるロムニーも負けてはいない。ロムニー陣営で有名になった新しい人種として期待される「グロース・ハッカー」の出現だ。若干24歳のアーロン・ジムの大活躍だ。

 

 ハッカーというとわが国ではコンピューター・ネットワークをいたずらする悪徳人間のイメージでみられているが、米国などでは技術力をもって困難を克服する努力人とみられている。特にグロース・ハッカーは、このアーロン・ジムのようにプログラミングとマーケティングの両知識を兼ね備えてもっており、いち早く裁定取引(アービトレージ)に目が向く人物で、今後のIT業界、特にシリコンバレーでは旗本と目されているものだ。

 

 グロース・ハッカーは、サイトをたまたま訪れた単なるビジターをいかにして自営陣に囲い込み成長に加担させるかに心を砕く。従来は顧客の拡大こそが成長の礎と考えられていたが、その状況を的確に判断したり、予測する手段がなかった。だがグロース・ハッカーはユーザーの行動を詳しく観察し、その行先を構築して囲い込む方策を考えた。エンジニアがプログラミングするのは、どんなデータが欲しいかであり、マーケッターがシステムを構築するのは、どのようなデータからどのような評価を引き出せるかというメトリックス(計量評価)のための仕掛け作りである。この2つがうまくかみ合うことによって、科学的な成長への道筋を見つけ出すことができる。必要ならいつでもデータを変えてしまうこともできるし、メトリックスの再構成も然りだ。柔軟性があるのである。

 

 ここで注意したいのは、予算だ。マーケティングに従来十分な予算がつくのが当たり前だったが、グロース・ハッカーにはそれがない。マーケティング予算ゼロがゆえにグロース・ハッカーの世界に入った人も少なくない。これが従来にないこの世界の特徴だ。いまはクラウドなどのネットワーク環境は完備されているから、多大な初期費用など必要ない。問題はいかにエンジニアとマーケッターが素早くマッシュアップできるかだ。

 

 その原動力にあるのが古くて新しいテーマ、裁定取引(アービトレージ)である。アービトレージは文字通り、安く売られているところから特定のモノを持ってきて高く売れている所でさばき、利ザヤを稼ぐ。これまで商社の飯のタネだった。一物一価ではなく、一物二価の世界をいち早く見つけ出すのがコンピューターの力だ。世界最大の証券取引所などでは今もこのアービトレージをネットワークで探し回り、わずかな口銭を積み重ね、それを飯のタネにしている証券会社は少なくない。

 

 グロース・ハッカーも同様である。この価格差を活用して最大の利益をあげようと考える。このルート探しに大活躍するのがクラウド・ネットで、これをうまく利用すると自営陣のユーザーを大幅に獲得することができる。これまでのマーケッターは、オフラインの世界でアービトレージを最大限に活用したが、グロース・ハッカーに代表される現代のマーケッターはそれをオンラインに置き換える。アービトレージを極大化するために、現在の製品・サービスのメトリックス(計量評価)を見直し、改良点を提案するのもグロース・ハッカーである。

(多摩大学名誉教授 那野比古)