第118回「シェール・ガス② 新たな懸念「誘発地震」‐ニューヨークをM5が襲う?」

 地下深くに大量の水を注入すると、それが引き金となって地震が発生することは、1936年完成のフーバー・ダムで明確になった。

 フーバー・ダムはラスベガスの南東約50km、アリゾナ、ネバダ両州境コロラド川ブラック峡谷に建設されたアーチ式ダムで高さ221m、長さ377m。上流の砂漠の中に琵琶湖の1.5倍もある巨大なミード湖を出現させたことで有名。水位は170mの高さで1938年に満水となった。このあたりは殆んど地震の無いところなのだが1936年には21回の有成地震が発生、翌年にはそれが116回に増えた。しかも1939、42、48、52年と立て続けにM(マグニチュード)5の大きな地震の発生をみるに至った。周辺が砂漠地域だけに大きな被害は出なかったが、これが都市に近いと揺れは震度5弱程度で大きな災害となった可能性がある。

 旧ソ連のタジク共和国では、1968年完成したヌーレク・ダムで水が深さ60mほどに達した1971年から、ほとんど地震の無かったこの地で有威地震が発生し始め、その後5年間でM4の地震が8回も発生している。

 水の地下への人工的注入については、コロラド州デンバーでの廃水処理が有名だ。1962年から、工場からの(この工場は核関連の問題ありの施設なのだが)廃水を深さ4000mの深井戸から地中に注入、処理した。その量は月間2000~3000万ℓであった。

 ところが注入を開始してから間もなく地震が発生し始め、M4.5を記録したこともある。

 コロラド州ランゲリコ油田でも1957年から深さ2000mの坑井に注入を始めたところ、M3.1の地震が起こり始めた。

 今回のシェール・ガスの削掘では、次回でその内容には詳しく触れるが、高圧の水を頁岩(シェール)層に注入して頁岩を破壊。そこから吸着していたガスを取り出している。この水の量は次回でみるように中途半端なものではなく、そのためのシェール・ガスの採掘が始まった米国中部ではM3以上の地震の年間発生件数が10年前と比べて一挙に6倍に増えたという。コロラド州やオクラホマ州では最大M5の局地的地震が観測された所もある。

シェール・ガスは欧州ではポーランドに賦存量が多く、同国政府はその開発に全力を挙げる予定をしている。

 中国政府は2010年、企業に対して使用可燃物質の2分の1をシェール・ガスとするように通達したというが、いずれの国もあとで述べる化学的な環境破壊に加え、誘発地震の怖さに注目している。

 地中に圧入された水は、上方向に流出すると地上の環境を破壊する要因となるが、地下の方向に流れれば、それが地震を引き起こす断層、起震断層の断層面に達することもある。それまで安定を保っていた断層面がこの水によって滑り易くなり、それが地震の発生につながることは十分考えられる。

 ペンシルベニア州でもバーネット頁岩層からのシェール・ガス開発はさらに拍車がかかるとみられて、殆んど地震のなかったニューヨークにそれが地震を誘発する源になるのではないかと真剣に心配されている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)