第117回「シェール・ガス①‐米エネルギー危機救った60歳起業“クレイジー・アンクル”」

 米テキサス州フォートワースの港には巨大なタンクが2基建っている。米国がエネルギー不足の懸念から液化天然ガス(LNG)を輸入するためのものだった。ところが今、このタンクは殆んど空っぽ。10%程度しか埋まっていない。その理由は、米国国内から大量の「非在来型」と呼ばれる天然ガスが産出され始めたからである。

 頁岩(シェール)という固い地層の中に閉じ込められているガスを取り出すことから「シェール・ガス」と呼ばれる。シェールには原油分が分散して存在する場合があり、これから取り出す原油は「シェール・オイル」と呼ばれている。このシェール・ガス、シェール・オイルが米国のエネルギー危機を救った。そればかりか多くの雇用と技術ベンチャーを創出している。

 米軍を退役し、大学では石油地質学を専攻していた1人の男がいた。油田開発のコンサルタントとして活躍していた1919年生まれのジョージ・P・ミッチェル。

 彼の足元地下2000mには、テキサス州からペンシルベニア州にまで広がる広大な厚さ100mのバーネット頁岩層があり、そこには莫大な天然ガスが含まれている。ただこのガスは固い緻密な頁岩(シェール)の中に無数に存在する微小な「セル」と呼ばれる小部屋の中に閉じ込められており、ガスを取り出すには頁岩に細かなヒビを入れて、このセルからガスを解放しなければならない。

 ボーリングで地上から頁岩層に穴を開けても、その縁辺のみのヒビ入れではガスの大規模回収とはいかない。ボーリングの先から水平な頁岩層に水平の掘りを入れ、それによって広い範囲のひび割れを作り出す必要がある。

 ミッチェルが果敢に立ち向かったのは、この技術の開発であった。水平掘削、破砕(フラッキング)、いずれも当時存在しない未踏技術である。見た目にはとてもガスなどが含まれていそうにない固い頁岩から天然ガスを採り出すと意気込むミッチェルをみて、人々は“クレイジー・アンクル”と呼んだ。

 最大の難関は破砕(フラッキング)。水平の管に穴を開け、そこから高圧の液体を噴出させることで管の周りの頁岩を砕く。問題は、水平掘削の方法、穴の大きさ、注入圧力、そして注入する液体の成分ときちんと割れ目が出来ているかを調べる評価システムを確立した。

 頁岩(シェール)は、もともと泥が堆積した泥岩がベースで、これが地殻変動で地下深くに埋まり、圧力がかかって圧密される一方、板状に剥がれる性質が加わり、かつ、泥と一緒に沈澱した微小動物などの遺体が熱分解してオイルやガス(主にメタン)を発生した。ただし、ガスなどの生成については、超最新の研究結果では、沈澱した有機分の熱分解産物ではなく、堆積した泥の中に生息していた微生物が産生したものとみられるようになった。

 泥が厚く堆積するためには、水の流れの強いところでは駄目で、厚い泥岩の堆積環境は巨大な入り江とか、大きな湖などが最適となる。このような環境では還元性の微生物の繁殖が極めて盛んで、前述に見たようなガスの貯蔵層となる。これが、シェール・ガスだ。

 ミッチェル氏は、60歳を過ぎてからシェール・ガスを取り出すための小さな開発ベンチャーを設立。6年の苦難の末、前述の生産法を確立した。

 米国のエネルギー危機を救ったこのシェール・ガス生産技術について、ミッチェル氏はひとつの特許も取らず、一般公開したのは立派と評判が高い。なお、ミッチェル氏のこの小さな会社は、何と35億ドルで売れた。

(多摩大学名誉教授 那野比古)