第116回「超人気だった「ベンチャー訪問ツアー」‐大企業との提携案件が続出」

 筆者は1995年前後3年間にわたり「SCB研究会」(SCB:スモール・クリエイティブ・ビジネス)というベンチャー企業や第2創業の支援を目的とした研究会を主宰したことがある。メンバーは大企業の新事業企画部といったところが大半で、業種は資生堂やポーラからホンダ技研工業まで様々約30社。

 2か月に1回会合を開いて講師を招聘しての勉強会を開いていたが、この程度にならまでもいくつも存在する類似の会合と同じで、目新しい所ではない。

 このSBC研究会で特に超人気を博したのは“ベンチャー訪問ツアー”であった。

 これは本会の主宰者側で選んだ意欲ある経営者が運用していると思われるベンチャー企業を全国から選出、1泊2日、1回2~3社を訪問して見学、経営者とも膝を交えて懇談しようという企画で、ベンチャー関連情報の入手し易い首都圏より、地方のユニークなベンチャー企業の発掘に主眼が置かれた。

 ベンチャー企業訪問といっても、訪問先現場は小企業のゆえに5、6人も足を踏み入れると一杯というところがほとんどで、場合によっては室外から眺める場合も存在する。

 しかしベンチャー企業を理解する上では、この“踏み入れ”は極めて重要である。まさに百聞は一見にしかず。見聞きした通りの技術・サービスが提供でき、職人がいるか?(ひどい所だとサンプル品を別の腕のいい職人に作らせ、それをあたかも自社製のように宣伝して歩く者もある)。従業員の表情は明るいか?(ベンチャーは給与の額ではなく従業員に働き甲斐と未来発展の夢を与える)。工場内の整理は行き届いているか?(床に油が垂れていたり、配線が乱雑にからまっているような所では、やがていつか労働災害や製品不良を発生させる)。などなど現場でしか知り得ない情報は極めて多い。

 また訪問先の経営者は夕刻、近くのホテルか専業の呑み処に出向いて頂いて、見学者との間でのQ&A時間を持つ。

 ここでは経営者の抱負、事業計画、場合によっては上場を目指した資本政策までも話して頂く。

 このような状況から1回の訪問者数は5人限定とした。訪問先のベンチャー企業には、応援の意味も込めて当時の一般的な講演料20万円に10万円プラスの謝礼を行った。したがって訪問者の負担は場所によって異なるが、1回につき20万円以上になる。それでも希望者は相次いだ。

 地方での交通不便の解消やタクシー代の倹約にもつながったのは小型貸切バスの活用であった。

 このベンチャー訪問プロジェクトは絶大な効果を生んだ。時限なしの守秘義務を課した上で運用されていたため、その成果を具体的に明らかにすることは出来ないが、20件近いベンチャーと大企業との提携が実現した。内容は出資、共同開発、開発依頼、製品の購入、特許・ノウハウの購入など様々。子会社となって栄えたところもある。蛇足だが、提携が成立すると研究会にはその額の1%が自主的に寄付され、この収入はバカにならず、訪問ツアー費用の減額に充てられたことは言うまでもない。

 また旅行会社がこの企画を聞きつけ、定常的に開催したいと接触してきたが、ベンチャーや企業は見せ物ではないとこれは断った。

(多摩大学名誉教授 那野比古)