第112回「日本再生戦略の要「イノベーション」‐異分野進出での落とし穴に注意」

 前回取上げた「日本再生戦略」では、至る所にイノベーションの創出という言葉が踊っている。従来とは全く異なる技術・製品・サービスの創出によって、非競争性の市場の創出、新産業の創出を狙ったものだが、最近はEV(電気自動車)や省エネ化に絡んだエネルギーのスマート化、EMS(エネルギー・マネージメント・システム)や照明のLED化、家電製品の自流化の動きなどを通じて、それまで関係のなかった企業が、全く新しい分野へ進出してくる側が非常に多くなっている。

 例えばEV。これまでの内燃エンジン・トランスミッション系の駆動装置では専門の自動車メーカー以外に車を製造することは出来なかったが、EV時代になると、極端な話が、モーター・電池・インバーターなど市販品を購入、制御基板さえ開発すればだれでも自動車市場に参入することができる。極めて高度な機械加工という垣根は取り払われた。

 扇風機など家電製品の直流化でもベンチャー企業の進出が相次いでいる。直流化によってキメ細かく省エネ制御が出来るばかりでなく、電池を内蔵させて「ピーク・シフト制御」、つまり電気が余って安い時間帯に充電しておいて、需要が多く価格が高いピーク時には電池からの電気を利用しようという代物で、価格は従来の扇風機と比べ2~3倍と高価にも係わらず飛ぶように売れているという。

 ところで異業種の新分野への進出はイノベーションを代表するものとして大歓迎だが、進出した新分野については製品の性能テストや規制などもそれまでの分野とは全く異なっており、それについては予め十分研究しておく必要がある。

 そのいい例がLED電球だ。電力喰いの白熱電球の生産中止動向などが追い風となって、価格は高いながらもLED電球への需要はうなぎ登り。白熱電球に比べて同等の明るさならば消費電力は5分の1、しかも寿命は40倍というのが売り物だ。この動きに乗り遅れるなと、大企業からベンチャーまでがこの分野に相次いで参入している。

 しかしここで大きな問題が発生した。筆者も気が付いたことだが、白熱電球60Wの明るさと同等の明るさをもつLED球とうたわれるものの、どうも白熱電球に比べて暗いのである。苦情は国民生活センターのも寄せられた。60W相当と表示しながら複数のLED球メーカーの製品では3分の1程度の光量しかないという。

 実は新参のLED照明メーカーは、照明器具の明るさの正しいテスト方法を知らなかった。

 日本工業規格(JIS)では白熱電球60Wの光量は810ルーメンと定めている。LEDは一定方向に光を放射するため、夏下ではこの明るさであっても、全方向でこの数値を満たしていなかった。全光束で明るさを測定しなければならない点が見落とされていたのだ。

 この件は購買者側にも新製品に対しては知識を持つことを要求している。電球はW数ではなく全光束ルーメンの数値で見なければならない点だ。ちなみに明るさについては、白熱球60W品は810ルーメン、40W品は485ルーメンとなっており、この全光束が満たされていない限り何W相当品と名乗ることは出来ないわけだ。LEDはいわば小さな平面からの発光で面方向にしか光が出ないという点を考えると、電灯とする前に工夫が必要だったのである。

 このような問題は初期のリチウム・イオン電池製品でも問題があった。充電の仕方の違いによって電池が発熱、出火に至るという事故が発生したのである。

 いずれにしても新分野への進出は、その分野での製品検査情報、完成度の評価問題について予め十二分に調査しておく必要がある。不良品の山を築かないために。

(多摩大学名誉教授 那野比古)