第111回
「ポスト金融円滑法にも言及‐「日本再生戦略」のベンチャー支援に対する新たな注目点」

 7月30日、久しぶりに気骨ある施策が発表された。政府の国家戦略会議がまとめた「日本再生戦略」(2020まで)である。

 本欄が第108回で取り上げた金融円滑法(通称モラトリアム法)の期限切れの問題についても言及するなど、内容にはかなり具体性を持たせているのが特徴である。本欄同回で新しい金融手法としてデッド・エクイティ・スワップ(DES)の例を取り上げたが、このDES(債務の資本化)や資本性借入金などの推進を積極的に提言している点は極めて目新しい。

 DESはこれまでダーティーな側面で使われてきたことが多い。市場からの退場を迫られる債務超過におちいった上場企業が、この手法を駆使して一気に債務を一掃、優良会社によみがえる。

 わが国では上場しがみつきのための道具としてDESが多用された歴史があり、あまりイメージの良い金融手法とはみられていなかった。

 しかし今回の再生戦略では、金融円滑法にも盛り込まれたDES手法を中小企業の発展の目的に使うことを明確に打ち出し、DESに本来の光を与えた。

 この日本再生戦略では、今後の成長の柱として、環境、医療介護、農林水産、それに中小企業を4大プロジェクトと位置付け、13年度予算から特別枠で重点配分することを決めた。特に再生戦略の最大の特徴は、中小企業の活性化を明確に打ち出している点で、ベンチャー企業の起業・育成、中小企業の海外展開の支援、人材の確保・定着の支援などが取上げられている。開業率を廃業率より常に上回らせるのが目標で、中小企業の海外売上高比率を4.5%にまでもっていくという遠大な目標もある。

 そのための金融面からの支援として、前述のDESばかりでなく、個人保証制度の見直し、動産・売掛債権の担保化による資金調達などが注目点で、個人保障の見直しでは、金融機関との取り決めに違反した場合にのみ保証責任を負うという「停止条件付個人保障契約」制度など経営者個人の保証を限定化する方策も奨められている。

 また金融機関に対しては、無議決権株式のより一層の活用を促しており、これによる資本性資金の供給など、中小企業支援策が多岐にわたり具体的に示されているのが今回の日本再生戦略の最大の特徴である。

 「何かにチャレンジすることによるリスク」よりも「何もしないことのリスク」の方が大きいとし、まず実行が重要とする本戦略の視点は、これまでの支援策、特に中小企業、ベンチャーに対するものとしては初めてである。

 ただ問題はやはり財源。民主党政権はこれまで各省庁に一律の予算削減を要求してきたが、次年度からは各政策分野や施策ごとに予算の見直しも行い、そこから財源をひねり出す計画である。このためには社会保障費などの見直しの俎上に乗せられるという。

 今回は11の分野から、先述4分野を抜き出して重点分野としたが、環境だけでも10兆円以上の需要創出と150万人以上の雇用創出、医療・福祉で同50兆円、同284万人、農林水産でも10兆円の市場創出を目論む(この分野はTTPの絡みが今後の注目点)極めて野心的な日本再生戦略となっている。

 しばらく火が消えた様相を呈していたベンチャーの世界にどんな活力をもたらすか、見守っていきたい。

(多摩大学名誉教授 那野比古)