第108回「再延長ない「モラトリアム法」‐期限後に懸念される倒産ラッシュ」

 2009年12月に成立した「金融円滑化法」(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置法)、通称「モラトリアム法」が2回の延期を経ていよいよ2013年3月でその効力を失う。

 この法律は2008年のリーマン・ショックに対応するために施行されたもので、内容は、金融機関からの借入金の元本返済や利息の支払いは一定期間猶予されるというまさに文字通り夢のモラトリアムなのである。

 中小企業等で金融機関に対する債務の弁済に支障が生じ、あるいは生ずるおそれのある者から、当該債務の返済負担軽減の申し込みがあった場合、中小企業者の事業について改善、再生の可能性を勘案し、できる限り貸し付け条件の変更、旧債の借換え、当該債務を消滅させるための株式の取得、などを行うように務めるという(同法第4条)。

 テッド・エクイティ・スワップ(DES)、株式と債務の相殺まで認めるという驚くべき内容となっているのである。

 これら貸し付け条件の変更やDESなどによって、多額の損失で発生していた債務超過が解消され、金融機関側からみれば、不良債権の消失となり追加融資を実行することが可能となる。

 ある家電販売店は、近くに開店した量販店の影響で売り上げは3分の2に減少、2期連続の赤字を計上して債務超過となった。借入金に対する返済は不能だが、代表が当店に対する個人的貸し付けで返済しており、アフターサービスに力をいれるなど新たな努力で赤字は解消する方向にあるという。金融機関は、代表からの借入金を自己資本とみなして債務超過とはならず、特段の問題のない貸出先と評価する。

 ある精密機械メーカーは、技術力を評価され売上げを伸ばしていたが、急激な円高で債務超過に転落、省力化投資を行いたくても融資を受けることができない。金融機関は技術力を評価、省力化計画が進めば円高にも対応できると判断、資本性借入金への条件変更を認め、これにより債務超過は一気に解消した。1種のDESの実行である。省力化融資が行われた。この資本性借入金の金利は業績連動型となっており、投資効果が現れるまでは金利負担は低く、それだけ資金繰りに余裕ができる。

 「モラ」とはラテン語で猶予、先延ばしという意味で、戦争、天災などで債権の回収が困難な事態となった場合、信用制度の破壊を防ぐため返済に猶予を与えるというもの。

 わが国では関東大震災後の「震手」のモラトリアムが有名。地震のために支払不能となった手形のことで、特定被災地域で発行された手形にスタンプを押して区別、緊急勅令によるモラトリアムが発動された。

 同時に問題化した現金不足に対しては、裏は真っ白で表面のみ印刷された200円札を大量発行することで応じた。これにはニセ札行使で逮捕されるという裏話もあった。

 モラトリアム法によって、これまでは信じられなかったような救済例が数え切れないほど存在するが、問題はその期限後である。駆け込み需要が激増する一方、最も恐れられているのは同法期限後に顕在化してくる大量の倒産事例の発生である。

 2012年3月現在、中小企業などに対し285万件、79兆円分が実行されているというが、その多くがデフォルト・ラッシュに巻き込まれるのではないかとの懸念が広がっている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)