第92回
「ベンチャー起業への出資リストは企業の顔であり力である‐評価高い中国系の出資」

 カリフォルニア州などベンチャー起業が盛んな所では、中国系の人による出資の重要性が注目されている点は意外と知られていない。特に華僑の動きが目を引く。華僑は中華人民共和国や台湾と、居住地のある別の国との二重国籍を持つ中国人で、したがって両国の経済社会とのつながりが深い。

 居住国ではマイノリティだけに互に同胞意識が強く、互助発展の精神があるといわれる。

 ところで中国系の出資者の存在のどこが買われるのか。それは出資先企業とともに発展しようという意欲が常に存在しているからであり、その結果価値が上昇し、自らも株価などで利することになる。

 一般にベンチャー企業への出資といえば、IPOにかけた一発千金狙いが殆んど。一般から集めた資金でファンドを組みベンチャー企業に投資する場合、ファンドの償還期限に達すると、それまでにIPOを果たした企業からの利益を分配し終わると、残る未上場の企業は足手まといとばかり、サービサーなどの特殊な業者に文字通りたたき売りしてしまうケースが多い。

 このようないわば職業的出資者に対して、中国系は違う面があるというのである。

 わが国でもベンチャー企業アーリー時の泣き所のひとつは販売。モノが売れなくては事業にならない。出資者に販路開拓を求められるケースは非常に多い。

 ところが中国系の出資者は販売先ばかりでなく、資材の調達先、部品の仕入れ先、場合によっては技術提携先や生産委託先まで探してくる。これは双方の分野に余程精通していないとできる業ではない。バックには、品質、納期、それに最重要課題であるコストという問題が控えており、これがクリアされる可能性がなければ簡単に紹介はできない。

 台湾でファウンドリーの形で多くの半導体メーカーが林立する有様となっているが、これも元をただせば、最初は間に立った中国系の出資者の活躍の賜物であった。

 出資者が、その企業の潜在能力を評価して新しい市場への進出を促す例も多い。いわば販路の創出である。

 たとえばいま流行りの電気自動車(EV)だが、米国のEVメーカーへの中国系出資者が、台湾などでの電機関連メーカーにEV用モーターやインバーターの製品化を積極的に持ちかけている。新市場への参入である。中間に立つ中国系の人たちは、むろん両社を知り尽くしていなければならない。中途半端な技術ではとても新市場への対応はできない。

 台湾が現在世界の半導体生産の多くを一手に引き受けているのと同様に、EVの要である車用3相モーターやインバーターも台湾勢が世界を抑える可能性が見え隠れし始めている。

 ベンチャー起業での出資者リストはその企業の顔である。役立つ出資者という戦略をわすれてはならない。本欄88回で述べた冠ファンドもこの意味では非常に役立つものと考える。

(多摩大学名誉教授 那野比古)