第87回「新たな出資プラットフォーム「クラウド・ファウンディング」」

 最近、個人投資家の出資意識に異変が生じている。将来に向けた利益獲得への投資ではなく、個人の趣味趣向や社会的視点をベースとした、いわば献金に近い出資が増えている点である。

 一方、出資を募る側の意識も変わってきている。詳細な事業計画書を作成していかに有利な投資先であるかを説得し、出資者からある程度まとまった資金を得るという従来の方法とはまったく異なり、自らのアイデア、夢を熱っぽく語り、それに共感した個人から少額の資金を集めてアイデアを実現させるというまったく新しい資金集めの方法だ。

 この2つに共通しているテーマは「共感」であり、そこにはギラギラしたカネ儲けの姿は見当たらない。

 また、「共感ファンド」というべきまったく新しい資金集めのプラットフォームとしてインターネットを利用した「クラウド・ファウンディング」なるものが出現している。

 ネット上に掲載できなければ誰にも知られず、世に出ることなど絶対にありえないアイデアや思いを実現するための資金がネット上から集まってくる。

 ミュージシャンを目指すある個人が、動画共有サイト上などで自分の作品を見本として投稿、不特定多数の多くの人にそのデモを見、聴きして頂く。「いい曲だ」など感銘を受けた人は、ディスプレイに表示されている共感ボタン「Grou!」をクリックする。そうするとミュージシャンを志す人にはクリック1回当たり1ドルが転がり込む。

 出資した人への見返りはどうか。特別な楽曲などがプレゼントされるほか、本人と直接会話ができることが更に出資者との共感を深めることができる。

このクラウド・ファウンディングを運用している東京・渋谷のGrow社では、この仕組みでアーチスト志望者などが生活の糧を得るのが目的ではなく、共感者の存在に勇気付けられ、より素晴らしい作品の創作ができればよいと考えている。

 米国などでは、クラウド・ファウンディングがさらに発展してベンチャー企業の創業と投資という場にも登場しようとしている。米国では新製品のアイデアに対して、数万ドル集まることは珍しくない。

 クラウド・ファウンディングは、単に起業という範囲ばかりでなく、上でみたようにアーティストなど個人の才能を育むための出資の場となっている点は見逃せない。

 わが国では同じく東京・渋谷のハイパーインターネッツ社がキャンプファイアと名付けたクラウド・ファウンディング・サービスを提供している。資金を募る人は7~90日間のパトロン募集期間に目標資金が全額以上集まった場合、資金集めは成立となる。同社はこの成約額から規定の手数料を受け取る仕組み。

 本欄第84回で紹介したミュージック・セキュリティ社も、クラウド・ファウンディングを手掛けるソーシャル・ビジネス・プラットフォームと理解することができる。また本欄第7回も共感ファンドの新たな形と捉えることもできる。

(多摩大学名誉教授 那野比古)