第86回「災害からニューBiz⑤‐災害で一挙に低開発国レベルになった社会的インフラ」

 「貧者から無いカネを絞り取る事業だ」‐前回紹介したマイクロファイナンスについてはこのような批判があった。ソーシャル・ビジネスは、ビジネスとして運用される以上利益を生み出す必要がある。この利益の源が貧者のピンハネというのは怪しからんというわけだ。

 一方社会的インフラが極めて未整備な発展途上の国や地域などにあっては、本来の整備主体である政府や自治組織に代わって、インフラと直接関わりをもつコミュニティが自らの力でインフラの整備に乗り出すケースも現れてきた。この場合社会的インフラとしては上下水道、道路、エネルギー、教育、医療といった分野ばかりでなく、流通、金融など経済発展に不可欠なコマーシャル・サービスも含まれる。

 ソーシャル・ビジネスは、このような発展途上国では極めて有力な手段だが、高利益追求型の先進国にあっては存在意義が乏しいとの意見もある。新金融商品の開発に汲々たる最先端の金融工学企業と泥臭いソーシャル・ビジネスは相いれないというわけである。

 ところが、どんな先進国も、一瞬にして低開発国と同レベルの社会的インフラに没落する事態があることを知った。自然災害である。東日本大震災はその最たる事例であるし、災害が人工的に増幅されるケースもあることも知った。東電福島第1原発事故がそうである。

 先進国では、生活に下方硬直性が発生しているが故に、インフラの破壊は住民にとって実感として大きな痛手を蒙る。

 群馬・栃木両県の町工場有志たちが立ち上げた「㈱下請の底力(シタゾコ)」は、「一般社団法人チームともだち」を設立、東日本大震災の被災地支援に乗り出した。このアイデアは元々は海外との人的ともだち作りを通じて海外進出を図ろうというものだったが、被災地支援へと大きく舵を切り替えた。

 船や港、畑を失った農林漁業者の仕事を確保するため福島など被災地の産物のインターネットを通じて販売を始めた。

 漁師の経済的支援には、おかみさんの動員も欠かせない。2011年クリスマスを前にしたそのプロジェクト名は「東北グランマのXmasオーナメント」。おかみさんたちにオーナメントを内職で作ってもらい販売した。2万5千個近くが売れ、おかみさん1人につき10万円の分散金を渡すことができたという。

 仙台市の㈱ファミリアは、被災地に新たな雇用を生み出そうと地元民間企業を巻き込んで「東北Rokuプロジェクト」を立ち上げ、名取市に1200坪の土地を確保して、農園、野菜加工工場、飲食店、キッチンスタジオなどからなるレジャー施設「6次産学モデルファーム」開設に向けがんばっている。100人の雇用を生み出すのが目標だ。

 被災地でボランティアのインターンシップ事業を展開する団体もある。その名は「T-ACTプロジェクト」。広島、松山、宮崎でそれぞれソーシャル・ビジネス育成支援を行っている特定非営利活動法人、ひろしまNPOセンター、愛媛アカメディア、宮崎文化本舗が協力してボランティアのインターンシップを陸前高田市や気仙沼市の企業に派遣、がれきの除去ばかりでなく、地元の住民と共同でイベントを開催するなど、復興への音頭取りで先陣を切った。東京の㈱ソシオエンジンアソシエイツも積極協力したという。

 上でみた事例のように、今回の震災はソーシャル・ビジネスのわが国での展開に対して、極めて大きな機動力となった。全国各地の福 ソーシャル・ビジネス関連中間支援団体が互いに手を組み行動するという、これまであまり見られなかったケースも現れた。ソーシャル・ビジネスの動向は今後も目は離せない。

(多摩大学名誉教授 那野比古)