第82回「災害からニューBiz②‐効率的な除染技術の製品化へ向け、大・小企業入り乱れての開発競争」

 本稿第63回でセシウムの除去には、プルシアンブルーと呼ばれる顔料(色素)が極めて有効と述べた。プルシアンブルーには放射性であるなどに関わらず、セシウムを吸着する能力がある。

 前回紹介した息の長い除染事業に向けて、プルシアンブルーを利用したセシウムの除去・回収の効率化に向けて、各社が一斉に技術開発に走り始めている。

 JCNは、独自の磁気分離方式を開発、汚染水からセシウムを安定的に除去できるという。汚染水にセシウム吸着剤に鉄イオンなどを加えて、セシウムを吸着したフェロシアン化鉄とし、これを磁気で回収する。

 海水に溶けたセシウムが10PPM(PPM=1000万分の1)と希薄でも99.5%のセシウムを除去することができるという。JCNはチッソの事業子会社。

 フェロシアン化合物といえば、高崎市にある環境浄化研究所は、フェロシアン化コバルトを使ったセシウム吸着繊維を開発している。この化合物にカリウムを結合させておくと、カリウムとセシウムが選択的に入れ替わり、セシウムが取り除かれる仕組みだ。

 いわき市の小学校のプールで実証実験を行っており、海水中のセシウムが効率的に吸着されることを確認。吸着後の繊維は高温高圧下で減容して貯蔵できるとしている。

 大阪のダイクボウノイは、空気中のセシウムの90%以上を吸着できるマスクを製品化している。その名も「プルシアンガード」。プルシアンブルーやフタロイシアニン錯体をそれぞれ染み込ませ、3重に重ねた不織布を開発。セシウムの水溶液にも使え、この不織布を1時間浸してから水中に残るセシウムを測定したところ90%以上が吸着されていたという。

 神戸の八起産業と川崎重工では共同で、セシウム汚染土からのセシウム除去テストを郡山市で実施している。八起産業は特殊な凝集沈殿剤メーカーで、汚染土壌を水洗、洗浄水に凝集剤を加えセシウムを除去する。郡山でのテストでは、洗浄後の土壌には8%程度セシウム線量が残るが、上澄水にはセシウム分がゼロ。腐葉土が多い汚染土壌では残存セシウム線量は38%と高いが、それでも上澄液はゼロだったという。汚染土壌のセシウム量を減らし土壌の再利用を狙うほか、洗浄水が安全なのも大きな利点。

 物質・材料研究機構は、プルシアンブルーのセシウムの吸着能力を  の8倍にもできる合成法を開発した。2ナノから50ナノメートルの微小な孔を無数にもつプルシアンブルーで、これにより従来の10倍の表面積、1グラム当たり30平方メートル以上をもつという。合成は簡単で、プルシアンブルーのナノ粒子の水溶液にポリビニールピロリドンという物質を添加、塩酸で処理するとできる。添加に1キログラム3,000円程度かかるが、全体の効率からするとコスト増にはならないという。

 セシウムの吸着には、粘土鉱物のゼオライトも活用されるが、ゼオライトはカリウムやナトリウムも吸着するため海水中に存在するセシウムの回収には不向き。また吸着にはプルシアンブルーより時間がかかるという欠点もある。

 東芝とIHIは、東電福島第1原発で稼働中の汚染水処理システム「サリー」を20フィートのコンテナに収納、トラックで運べる程度に小型化した装置を開発した。処理能力は毎時1トン。処理後の水の放射線量は飲料水基準の1キログラム当たり10ベクレル以下になるという。

 また東芝は、汚染土壌の浄化システムも開発している。汚染土壌をシュウ酸溶液に浸けてセシウムを溶出させ、吸着剤で除去する。処理能力は1日1.7トンで97%のセシウムを除去でき、処理後の土壌の土は元に戻せる。5日間あれば、400平方メートルの広さの土を2センチ剥ぎ取って処理が可能という。

(多摩大学名誉教授 那野比古)