第77回「内部被曝⑬ 高放射線地域での健康リスク-白血病除外という奇妙な調査」

 本欄第62回で、自然放射線が特に高い地域があることを紹介した。

 自然放射線とは、岩石や漂砂などに含まれているトリウムやウランなど放射性元素を含む鉱物からの放射線、さらには宇宙線などからの外部被曝、空気中に存在する放射性気体のラドンからの放射線、カリウムなど食物に含まれる放射性核種からの放射線による内部被曝を指す。

 これら自然放射線による被曝量は、世界平均で年間1人当たり2.4ミリシーベルトといわれている。内訳は、ラドンにより1.26ミリシーベルト、大地から0.48ミリシーベルト、宇宙線0.39ミリシーベルト、食物0.2ミリシーベルトとなっている。

 ところが世界では、特に大地からの放射線が非常に強い地域がある。今回は別の資料UNSC(国連科学委員会)の報告を眺めてみると(いずれも年間最高値)、イランのラムサール149ミリシーベルト、インドのケララ州カルナガパリ地方35ミリシーベルト、中国広東州陽光32ミリシーベルトなどが指摘されている。

 これら高自然放射線地域における住民の健康状況は一体どうなのであろうか。

 低線量の放射線を数十年間にわたって受け続けている住民集団は、低線量被曝リスクに関する絶好の研究フィールドでもある。

 前述のケララ州カルナガパリ地方では、1990年代初めから国際的な調査が進められている。この調査では、ただ単に住民の何%に病気が発生したかといった概念的なものではなく、住民1人1人について被曝量を正確に追跡するという方法をとった。「コホート研究」方式である。

 被曝量の把握にしても、どこの地域に何時間それぞれ滞在したかを個々について調べ、住民全体の被曝量を算出した。また喫煙などの影響を除外する方法も適用された。

 こうして発がん年齢とされる30才から85歳までの住民約7万人について発がんリスクが調べられた。

 最も高い被曝量を示した人たちは年間14.4ミリシーベルトを超えていた。これは1時間当たり1.6マイクロシーベルトの放射線を1年間にわたって受けた計算になる。

 ところで、このコホート研究の結果は?

 驚いたことに、白血病以外、どんながんも発症リスクは上昇していなかった。

 研究グループは、年間10ミリシーベルトの被曝では、発がんリスクは有意に増大しないと結論づけている。

 ただ、この調査について2つの問題点を指摘する向きもある。

 ひとつは、白血病を除外して検討されている点だ。発がんリスクが白血病以外は増大していないということは、白血病のリスクは低線量被曝とともに増えている事実を物語っているのではないか。

 第2点は、この調査は、政府・受益企業側が中心となって行われたいわば体制側の調査ではないかという点である。白血病問題は逃げの典型とみる。いずれにしても白血病発症リスクの問題は看過できず、是非とも綿密なデータを示してもらいたいものである。

(多摩大学名誉教授 那野比古)