第76回「実際にあった『オクロ』の連続再臨界-2時間半ごとに30分」

 福島第一原発1、3号機では、溶融した燃料棒の塊、デブリが圧力容器や格納容器の底にたまっている。

 これらデブリは、核分裂反応がおこりやすいウラン235の濃度3%、いわゆる濃縮ウランそのものでもある。

 ウラン235の核分裂によって放出され中性子が、次のウラン235にぶつかると、うまくいけば核分裂も誘発し、連鎖反応を生じせしめることができる。

 核分裂によって、発生したばかりの中性子は、高速中性子と呼ばれ、他のウラン原子核にぶつかってもはじかれて、核分裂は生じない。

 この高速中性子を減速し、スピードを遅くした熱中性子とすると、簡単にウラン235の原子核の中に飛び込んで核分裂を起こさせることが可能となる。

 この高速中性子をスピードダウンさせる重要な役割を演じているのが水(通常の水)である。

 そうすると、濃縮ウランがあり、濃縮ウランの塊であるデブリの中のひび割れに水が浸入して、それがちょうど減速材の役を果たせる状態となった、とすると、そこで局所的な核分裂反応が発生する可能性がある。
 
 そんな事が本当にあるの?ところが、現実に天然で存在した実例がある。

 現場は中部アフリカのガボン共和国。この国はオクロ鉱床などウラン鉱石に恵まれており、採掘されたウラン鉱はフランスに輸出されている。

 ところが、オクロ産のウラン鉱石には不思議な問題があった。世界のウラン鉱床かつ産出される鉱石中の核分裂性ウラン235の濃度は0.720%とほぼ一定の値を示している。

 ところが、オクロ産のウラン鉱石は、この値が最大で0.44%も近く低くなっているものがみつかったのだ。これはただごとではない。世界平均から低くなった分のウラン235は一体どこに消え失せてしまったのか。

 1972年9月27日付の仏紙『ル・モンド』は、フランス原子力庁の驚くべき研究成果をスッパ抜いた。

 このウラン235の減少分は、現地で、天然に生じた原子炉によって消費されたというのである。

 「オクロ天然原子炉」が初めて姿をみせた。

 ウラン235の半減期は約7億年と、45億年のウラン238に比べて短く、逆算すると、現在0.72%しかないウラン235も、5億年前には1.2%、20億年前には3.7%存在していたことになる。つまり20億年前には天然の濃縮ウランがあった。

 たまたま、このような天然濃縮ウランが(あたかもデブリのように)集積していた所に、地下水などが入り込んでくると、先に述べたような核分裂反応が発生する条件が整う。

 フランス原子力庁によると、オクロの天然原子炉は、水が割れ目などにしみ込んできた30分間、臨界状態で核分裂が発生、その水が熱で蒸発したあと核分裂は停止。2時間30分後再び水がたまって再び核分裂といった動作が数十万年と続いたという。

 出力は小さく、100キロワット程度であった。温度も数百度程度であったらしい。

 フランス原子力庁は、これを、自己持続性核分裂反応と呼んだ。

 実は、天然原子炉とその再臨界については、日本人学者が予言していた。1954年ワシントンで開かれた米地球物理学会の席上で黒田和夫さんが発表している。

 デブリに水をかけるとどんな事が起こるか―読者のみなさんの発想にお任せしよう。

(多摩大学名誉教授 那野比古)